――資料を調べてみて感じたことは?
やはり、あの時代にそれをやるのは尋常じゃないなと。僕自身、「日章丸事件」を知らなかったんですが、そのことを知れば知るほどに、あの時代に彼らがやり遂げた、ということが尋常じゃないなと思いますね。そしてそれを日本人がもろ手をあげて歓迎したというのが、ある種の復讐戦だったのかなとも思いつつ、よくぞよくぞ決意したなと思いました。
――国岡鐡造のモデルでもある出光佐三の生きざまはビジネスパーソンにも感じるところがあるんじゃないでしょうか。
彼は企画の人だと思うんです。もちろん人間味もあるし、みんなのことを常に意識してくれたというすばらしさもあったんだろうと思うんですが、企画の力が素晴らしかったからこそ、従業員もついてきたんじゃないかと思う。いつも困った時に驚くべき打開策を出してくれるんですよね。危険なこともありますが(笑)。しかし石油メジャーから石油の輸入ルートを遮断されて窮地に陥った時に、日章丸(作品では「日承丸」)をイギリスとの関係が悪化していたイランのアバダンに送ろうという考えは、非常に優れた企画だったんだと思うんです。
出光佐三は驚くべき打開策を出す企画の人
――劇中でも、鐡造の考えることはばくちだ、というようなセリフがありました。
どんなことをしてでも安い石油を集めれば勝ちじゃないかという鐡造の考えには、店員の側としては、いくらなんでもと思ってしまう。でも、そうは思いながらも、心のどこかでは、それは面白いかもという気持ちもある。そういう感覚は、映画作りでも似たようなところがあるんですよ。すごく難しい題材で、この予算ではやれない、というようなものであっても、企画が面白かったら頑張ってしまうというか。だから自分としても、スタッフが仕事に対して、面白いと思って参加してくれるようなものをやっていきたいなと思っているんですよね。
――スタッフを束ねるという意味では、山崎監督も。店主の鐡造に近いところがあるのでは?
アメリカでは、VFXの人を扱うのは「猫の放牧」だと言われているんです。みんな好き勝手なところに行くから、大きな囲いを作って、猫を放牧しているくらいの気持ちじゃないとVFXプロダクションのマネジメントはできないといわれているんです。まさにその通りで、みんな好き勝手なことをやってしまうので、みんなに「こっちだよ」と言いながら、ある場所に連れていくことがVFXプロダクションを仕切るということだと思います。ただ、それはスーパバイザーの渋谷(紀世子)という女性がいて。これがなかなか優秀な“猫使い”なんですよ。だから僕は夢を語っていればいいんです。
――その夢を語る際には、目標をどれくらいのレベルに設定するのでしょうか。
やや実行不可能なミッションくらいのことを言う方が燃えますよね。できる範囲だとつまらないですね。それは量だったり、今まで挑戦していないテクニックだったりと、そういう無理難題をオーダーされると燃えます。自分が技術者だった時がそうだったんですよ。「ちょっと無理かもしれないな」ということを匂わせられると、燃えてくる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら