慶應志木男が抱える「外部生扱い」のトラウマ 東京カレンダー「慶應内格差」<6>
頭の回転も速く、会話をしていても面白い。特に外銀でキャリアアップを目指す野心家の沙羅が気に入った。
もしや、と思って聞いてみたら、慶應女子出身だということが分かった。慶應女子!胸がざわついた。
小原が”慶女”に敏感な理由
僕は良くも悪くも慶女に敏感だ。そう、大学時代に全く相手にされなかったあの屈辱からだ。
慶應志木――。その名の通り、埼玉県の志木市に位置する。高校受験では慶應女子に並ぶ難関校。「慶應義塾高」「SFC」「NY高」、偏差値で見たらどこにも負けない。
推薦入学や慶應女子同様、東大も狙える学力レベルだが、多くの場合、通いやすさや部活動の充実から慶應への内部進学で手を打つ生徒が多い。7年間私立の学費を払うことになるので、一流企業の部長クラスや中小企業の役員等それなりの家庭である子も多い。居住拠点に埼玉を選び、子供には偏差値勝負で受験させる。「優良」を代弁したような家庭環境だ。
郊外ののんびりとした場所で3年間の男子校生活を送るので、まっすぐに育つことが多い。大学入学時までは。
入学式で、彼らは受け入れがたい現実を突きつけられることになる。いわゆる「外部生」扱いをされるのだ。自己紹介をすると必ず内部生からもらう反応。
「えー、志木ってあの森の中にある学校でしょ?」
「学校にきのこ生えるって聞いたけど、本当?」
嘲笑を隠そうともわかる。大学で初めて内部生と交わることにより、自分たちは内部生カーストの中の底辺であることを実感するのだ。外部生となんら変わらない。
小原は大学の授業にもちゃんと出席する真面目な学生だった。同じゼミに所属していた慶應女子出身の子にはテスト前だけ良いように使われた。
「絶対、俺の方が優秀なのに。なんであいつらはあんなに偉そうなんだ」
しかし、慶應内カーストは、永遠に覆らない。ならば、慶應を出た世界で自力でのし上がるしかないと思った。
そこから就職活動に全ての時間を費やした。そして第一志望だった投資銀行へ入社。その後、ヘッドハンティングされ、PEファンドに転職。いつか見返してやる、その負けず嫌いが功を奏し、最年少でマネージングディレクターにもなれた。