「小賢しい患者はキライ」な医者との闘い方

ときには医者を「教育」する勇気も必要だ

山口さんの膵臓がんの手術の執刀医は、膵臓がんの診療ガイドラインが改定された時の委員を務めた、この分野の「権威」であり、手術が上手なことでも有名なある外科医。山口さんは、この外科医に「コウベエ先生」とニックネームをつけています。

このコウベエ先生、患者の山口さんにパターナリスティック(父権主義的)な発言を繰り返します。

例えば、山口さんの手術が無事終了し、術後経過も順調で、晴れて退院した後の外来でのある発言。コウベエ先生は、山口さんに以下のような言葉を浴びせかけました。 

「様々試みる人に限って、死ぬんですな」

「手術をできた人でも、再発を防止する手段はありません」
「膵臓ガンの5年生存率が極めて低いのは、ご存じだと思います」
「自分だけは何としても生き延びようと思ってさまざまのことを試みる人に限って、不思議なことに死ぬんですな」

一言で表せば、「患者に病気についての知識など必要はない。全て医師に任せろ。患者は、医師の言うことに従っていれば良い」という立場にたつ発言です。さらに、俺に任せろ、というだけではなく、患者に不安を与えるようなネガティブな言葉を平気でいい放ちます。

ただえさえ闘病生活におびえる患者の気持ちを、さらに萎えさせる言葉かけです。現実にこんなひどい発言をする医師がいるだろうかと疑問に思う程ですが、少なくとも、患者さんが主治医からこのような言葉を投げかけられたと感じたことは事実です。

まして、山口さんは日本語学の学者です。発言者のもつニュアンスを敏感に感じ、それを冷静に受けとめています。この外科医の発する言葉は、医療者が患者に浴びせる呪いの言葉でないかとさえ、わたしには思われます。

それでは、なぜこの外科医はこのような呪文を投げかけたのでしょうか。ここには、色々な理由が考えられます。

1つは、おどすことで患者を萎縮させ、医師が患者に対して優位に立ち、患者を医師の指示に従うようにさせようとする「威(おど)しの医学」のためです。

2つ目に、「外科医として、わたしは最善の治療を施してやったのだから、再発したとしても、それはわたしの責任ではない」と、責任を回避するための伏線かもしれません。後になって、手術のやり方が悪かったと訴えられても困るから、手術が終了した時点で、患者に再発や死を覚悟させておく必要がある。こんな医師側の「脅(おび)えの医学」の結果かもしれません。

さらにいえば、「自分は日本一の外科医である」という自負心から、専門家としての自分の領分を患者に侵されてはいけないと考えるためかもしれません。

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