名将に学ぶ、メディアを味方につける技術 グアルディオラ、スコラーリの伝える力

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見栄のなさが、好感を生む

第一声でバイエルン地方の「グリュース・ゴッド」というあいさつを口にし、こう話し始めた。

「ドイツ語が間違っていたらすみません。ニューヨークで1年間勉強しましたが、そこはドイツ語を勉強するのに最適な場所ではないですからね。今日からここでドイツ語を上達させていきたいです」

記者からの早口の質問はさすがに通訳を介して聞いたが、答えるときはすべてドイツ語である。

とはいえ、まだまだ文法的にあやふやなところがある。そんなときグアルディオラは迷わず、横に座る広報やウリ・ヘーネス会長に「どう言うんだっけ?」と、まるで語学学校の生徒かのように質問した。

たとえばグアルディオラが「hoffen」(希望する)という動詞の後に「dir」(du<あなた>の3格)と続けたときのことだ。この新監督は「ん?」という表情をして横にいる広報に訊いた。

「あれ、dir でいいんだっけ?」

すぐに広報が正した。

「いや、dich (duの4格)ですよ」

グアルディオラは「そうか、dichか」と苦笑いして、ドイツ語を続けた。この飾らない姿勢が、多くのドイツ人の心をつかんだに違いない。

さらに公式TVのインタビューも、アナウンサーに単語を教えてもらいながら、すべてドイツ語で行った。

1年でこれだけ話せるようになったのも驚くべきことだが、何よりすごいのは、自分のわからないことを隠さず、実力をさらけ出したことだった。一切の見栄がなく、それが好感を生み出す。

実績がある監督でも、周りと衝突すれば、自分の思いどおりに進められなくなる。味方を作る伝達力が、仕事がやりやすい環境をもたらす。

木崎 伸也 スポーツライター

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きざき しんや / Shinya Kizaki

1975年東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了。2002年夏にオランダに移住し、翌年からドイツを拠点に活動。高原直泰や稲本潤一などの日本人選手を中心に、欧州サッカーを取材した。2009年2月に日本に帰国し、『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿。おもな著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)など。

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