痴漢常習犯は医療で治るのか、治らないのか 1人の更生に1000万円以上費やされるが・・・
「プログラムでは、“被害者はどう感じるか?”をつねに考えてもらいます。今、あなたが話したこと、あなたの行動を被害者が見聞きしたらどう思いますか?と。更生しようとしている男性は私たちのクライアントですが、同時に被害女性もクライアントとして背景に存在しています。更生する中で被害者の存在をないがしろにすることがあってはならないのです……が、被害者に対する贖罪の念は彼らの中にはほとんどない、と言えます。“被害者の方に申し訳ない”というわりには、実感が伴っていない」
それは、冒頭で紹介した裁判を傍聴して筆者が感じたことでもある。謝罪の言葉を繰り返すほど、それは軽く聞こえた。
「性暴力の恐怖を最も想像できないのが、性暴力の加害者自身なのでしょう。認知の歪みもそう簡単には修正できません。いくら間違っていても、彼らが人生をかけて築いてきた信念のようなものなので、その牙城を崩すには非常に時間がかかります。ただそれがなくても、痴漢行為をやめることはできます。被害者の心情への理解や反省を強く求めることは再犯防止に効果的ではないどころか、ケースによってはかえって再犯リスクが高まることもあります」
性犯罪被害者でなくても、これは許しがたいことだと感じるに違いない。
「“1件でも多くの再犯を未然に防ぐ”ためには、彼らの心に訴えるよりまずは行動を変えるほうが現実的だと考えています」
しかし、希望がないわけではない。
「彼らは行動が変わって初めて、内面に変化が起きます。それには、最低でも2~3年はかかると実感しています。毎月リスクマネジメントプランを更新し、時にはグループセッションで同じ性犯罪加害者の話を聞いて、それを自分にフィードバックする、これを何度も繰り返すことで、ようやく変化が訪れます。具体的に言うと謙虚になり、自分をコントロールし、人を尊重できるようになってきます」
鉄道会社は痴漢が多くても困らない
痴漢を減らすには、犯罪者を片っ端から逮捕するしかない。しかし、逮捕だけでは彼らの行為を止められない。加害者臨床経験のあるスタッフが時間をかけ、一人ひとりと向き合うことで、彼らはやっと少しずつ変化していく。孤立させず、つねに社会が見守ることが再犯防止には欠かせないが、現在の日本でそれを実施する公的機関はない。
それどころか鉄道会社も警察も、加害者の実態を見ようとせず、人混みに紛れて日常的に発生している痴漢行為を野放しにしている。それはなぜか。最後に斉藤氏に尋ねた。
「鉄道会社は、痴漢が多くても何も困らないからでしょうね。たとえば、すべての痴漢行為が通報されれば駅員さんも対応に追われ通常の業務に支障が出るはずで、そうなって初めて痴漢そのものをなくすためにドラスティックな対策を考えるのではないでしょうか。または、電車内痴漢に対する社会的な世論やバッシングが高まれば、何か手を打たざるをえないと思います」
痴漢撲滅は、社会の意識が変わらないかぎりありえないということだ。
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