痴漢常習犯は医療で治るのか、治らないのか 1人の更生に1000万円以上費やされるが・・・

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この証言によって量刑が大きく左右されるわけではない。通院による治療が始まってもいないのに、それで罪が軽くなるようなことがあってはならない。それでも斉藤氏は、この例のように「刑事手続きが始まる段階から、加害者臨床の専門家が介入すること」に意義があると話す。

「逮捕直後は、本人もなんとかしなければという気持ちが強いんです。“またやってしまった”“もうやらないと警察や家族に誓ったのに”と揺れているときこそ、なぜ再びやってしまったのかを一緒に考え、どうすれば再犯せずに済むかの道筋を作る絶好の機会です」

ここで疑問を感じる人がいるかもしれない。ケア、あるいは支援されるべきは彼らではなく、性犯罪被害に遭った女性ではないのか。電車に乗っていただけなのに痴漢という暴力にさらされて恐怖し、一生消えないかもしれない傷を心に負わされ、その後の生活にも支障をきたしている被害女性への社会的ケアは、十分というにはほど遠い。

しかし、同クリニックでのプログラムは、ケアや支援とは性質が異なるものである。あくまで反復する性的逸脱行動や認知の歪みを改善するための、治療教育的な臨床なのだ。

性犯罪は個人だけの問題ではなく、社会の問題である(写真:IYO / PIXTA)

これまで、延べ800人以上の性犯罪加害者がそのプログラムを受講している。3年以上受講を継続しながら再犯をした人は、現在のところほとんどいない。最も長い人では7年以上通院している。ドロップアウトした人については、追跡調査に限界があるためわからない。クリニックとのつながりが切れたことで孤立し、また女性に対して卑劣な行為をする可能性は十分にある。

「私たちは彼らを、取り返しがつかないことをした人として対応します。傾聴したり健康的な部分には共感的理解を示したり、受容的態度で臨むことは重要ですが、プログラムの現場は決して笑顔あふれる温かな雰囲気ではありません。いい意味の緊張感があります。クリニックに通い続け、加害行為を克服し変化しようとする際の痛みは尊重しています」

この再犯防止プログラムには医療保険が適用される。個人の支払いが低額であることが、参加の継続につながることは間違いない。実刑を受けると多くの場合、失職するからだ。医療機関以外でも同様のプログラムを実施している施設はあるが、同クリニックの参加費とはケタがひとつ違う。これでは、継続は容易ではない。

治療の継続率が再犯防止に影響するとなれば、保険適応には大きな意義があるとわかる。しかし、なおも「なぜ元犯罪者である彼らにそんなコストがかけられるのか」とモヤモヤする人は少なくないだろう。

痴漢1人に1000万円以上費やされる

「痴漢ひとりにかけられる税金がいくらかご存じですか? 彼らが逮捕され、拘留を経て裁判を行い判決が出るまでに、人件費も含めると1000万~2000万円が費やされるといいます。さらに懲役がつくと、その刑務所生活には年間300万円ほどがかかります。再犯するたびに痴漢1人につきそれだけの税金を費やすより、出所後の再犯防止プログラムにおカネをかける必要性を強く感じます」

性犯罪は個人だけの問題ではなく、社会の問題である。そして個人の意志や努力だけでは再犯防止が難しい。国によっては、性犯罪の前歴がある人物にGPSを取りつけて監視下に置いたり、化学的去勢を施したりすることで再犯防止が図られるが、それだけでは不十分で、治療とセットにすることで初めて効果が出るとされている。しかし日本では、その治療すら義務づけられていない。

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