「生活保護バッシング」が的外れな根本理由 食費1日260円で生活する34歳女性の叫び

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ではなぜ加藤さんは、生活保護を受けなくてはいけないのだろうか。

「10代のころから親子関係が悪くて、中学校でもいじめを受けてしまい、その時から不安障害を発症したからです」

と彼女は語る。特に父親との関係が悪く、ケンカや口論になることが多かったそうだ。家には幼いころから安心できる場所がなかった。学校の悩みを両親に打ち明けられる環境ではなかった。自分自身の居場所のなさをずっと感じていたそうだ。無条件で愛してもらえる環境に乏しかった。

加藤さんは、いわゆる不登校の状態を経験し、中学校の途中からフリースクールに居場所を求めた。そこで友人や仲間に巡り合えたそうだ。同じような境遇に身を置き居場所を喪失して出会う仲間とは意気投合することもあり、楽しい経験も多かったという。

居場所を求めてさまよって

それでも彼女が10代のころ、家出をし、友人宅を転々としていた時期もあった。

「家に居場所がない、理解者がいないと思い、居場所を求めてさまよっていました。今なら笑えるけれど、本当にフラフラとしていましたね」

自分勝手で、放蕩をしてきたように思う人がいるかもしれない。しかし、その当時のことを聞いてみると、「好きでフラフラしていたわけじゃない。とてもつらかった。自分の状況を理解してくれる人は本当に少なかった」と言う。

発症してしまった不安障害と付き合い、現在も加藤さんは都内の病院に通って治療を受けている。現在でこそ、不登校を前向きに評価する観点が広がってきたが、当時は学校に通わないことへの無理解のほうが多かったように記憶している。

学校のような強固にできあがった教育システムに対して、「逃げられること」「つらいと言えること」は加藤さんの強みである。若者が一定の規範から「逸脱」することを前向きに評価する観点を、よりいっそう広げていく必要があるのではないだろうか。わたしは加藤さんの話を聞きながら、生き方の多様性を尊重することについて具体的な取り組みを進める必要があることに気づかされた。

現在、加藤さんは「生活保護を、自立するために活用している」と表現している。生活保護制度がなければ、彼女は自殺していたかもしれないし、ホームレス状態になっていたかもしれないという。彼女自身がそんなふうに受け止めている。しかし、生活保護申請をすんなりと受け付けられたわけではなかった。

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