福島原発、終わりのない「水」との戦い 〈現地ルポ〉廃炉への遠い道のり(上)

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そのやり方は、1~4号機の建屋を囲むように1メートル程度の間隔で地下20~30メートルの難透水層まで凍結管を埋め込み、その管内に零下数十度の冷却材を循環させて凍結管のまわりに凍土の壁を造る。粘土壁などに比べて施工が容易で工期が18~24カ月と短い。遮水機能が高く、残土も発生しない。地震でヒビが入ってもすぐに再凍結する。2015年度上期の運用開始を目指しており、これによって建屋への汚染水流入は1日100トンまで減らせると試算している(100トン残るのは、雨水流入などのため)。

ただ、凍土による遮水壁には、これまで2年程度の運用実績はあるものの、大規模かつ10年を超える運用実績はない。世界でも例のない初めての取り組みだ。30~40年とされる長期の廃炉工程で耐久性を維持できる保証はない。東電側も「技術的に難しい」(広瀬直己社長)ことを認めている。また、継続的に冷凍機を運転したり、冷却材や凍結管・配管を交換したりする維持コストもかさむ。そうしたコストはまだ明らかにされていない。

こうした対策によって、東電と政府は2015年中に地下水流入量を100トンまで段階的に減らした後、建屋内の滞留水を徐々に処理することで、21年には流入量ゼロとする試算を立てている。成功してもあと8年。何か問題が生じれば、10年以上、地下水流入と汚染水増大が続くリスクは否めない。

約1000基、30万トンに増えた汚染水タンク、今後2年で容量は倍以上へ

バスは敷地南部の廃スラッジ(放射性廃棄物)貯蔵施設前に停車。降車して外階段で地上11メートルの施設屋上に上る。南から西方一帯には、数えきれないほどの汚染水貯蔵タンクが立ち並ぶ光景に目を奪われる。タンクに混じって、廃棄物を貯蔵する四角いコンクリート製の容器群。また、北方には建屋が一部崩壊した原子炉1~4号機を一望できる。空間線量は毎時5マイクロシーベルト。

増え続ける汚染水をどう保管するか、これも難しい課題だ。建屋内に溜まっていく汚染水は汲み出された後、処理施設でセシウムや塩分を除去されたうえ、原子炉注水冷却用を除いたものが中低レベル汚染水の貯蔵タンクに保管される。1000トン入る円筒型タンクや100トンの枕型タンクなど、現在敷地内には約1000基のタンク(総容量約33万トン)があり、総貯蔵量は約30万トンに及ぶ。東電では2015年度中ごろまでに総容量70万トンへ増設する計画。さらに2016年度中には80万tまで増設することを検討している。増設のために敷地内の林が伐採され、整地された土地も見えた。

高橋所長によれば、「福島第一は他の原発に比べて敷地がたいへん広く、土地としては80万トンのタンクを置く余裕はある」という。ただ、タンクを増やせばいいという問題ではない。タンクはあくまで一時保管用。根本的対策ではない。今の汚染水抑制対策ではタンク容量80万トンで何とか対応可能との試算だが、これもあくまですべての対策がうまくいっての話だ。

※「〈現地ルポ〉廃炉への長い道のり(下)」はこちら

(写真は梅谷秀司・日本雑誌協会代表撮影)

 

中村 稔 東洋経済 編集委員
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