中国版「LINE」は、本家「LINE」に勝てるか? ユーザー数4億人突破、WeChatのすごみ

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では「WeChat」はLINEに負けることが確実なのでしょうか。

私はまだわからないと思います。現在、台湾やタイでは「LINE」が優勢ですが、他方で、マレーシアや香港などいくつかのカギとなる国や都市では「WeChat」が圧倒的優勢という状況のようです。

日本人の私からするとWeChatは使い勝手が悪いと思うこともあります。「LINE」と同じようにスタンプ機能はありますが、その種類が少ない。でも中国人の若者に聞くと、「スタンプで確実に感情表現できるわけではないのでダサい」と言います。もともと漢字の情報量がたいへん豊富な国なので、スタンプを使わずとも、漢字で伝えられるということもあるのかもしれません。今のところ、機能がとてもシンプルです。

他方で、WeChatは巨大企業の投資事業なので、まったく収益性を求めずにコミュニケーションの質を高めることに集中できるという利点もあります。「LINE」も短期の収益化は求めないと公言していますが、投資余力という点ではWeChatにはかないません。とはいえ、「@ライン」など、OtoO(オンライン・ツー・オフライン)ビジネスとのコラボも早い時期から意識して取り組んだ結果、最終消費者にとってより便利なツールになる可能性もあると思います。

先進ユーザーがWeChatを選ぶワケ

また、もうひとつの重要な論点は、先進ユーザーがどちらのファンになるか、ということです。これは、ソーシャルネットワークにおいては極めて重要なポイントです。

この観点ではWeChatに分があると思います。中国にいて肌身に感じることは、東南アジアの華僑が一斉に中国との関係を強化していることです。清華大学などで英語で講演をすると、熱心な学生の多くは台湾を含めたアジアの華僑出身で、彼らは大学を英米で卒業した後、大学院で中国に来てネットワーク作りをしています。間違いなく自国で最先端ユーザーの彼らがWeChatのユーザーであることは想像に難くありません。

こうして論点を整理してみると、インスタントメッセンジャーの世界の覇権争いは、まるで地政学の格好の研究材料のように思えてきます。中国でオンラインマーケティングを行ううえで必須のツールとなったWeChatを、こうした観点からも引き続き注視していきたいと思っています。

(構成:上田真緒)

金田 修 游仁堂(Yo-ren Limited)CEO

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かねだ おさむ / Osamu Kaneda

1974年神奈川県生まれ。97年、東京大学経済学部卒業。ロチェスター大学経営大学院修了。大蔵省(現財務省)を経て2001年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。07年、同社日本支社最年少パートナーに就任。コンサルタントとして、アジア各国の大手アパレル企業における全社成長戦略、中国生産体制再構築、店舗ペレーション改革に携わる。アパレル業以外にも、小売業、金融業など数多くの企業の成長戦略や経営人材育成プログラムの設計、海外提携・買収戦略を指導する。11年に游仁堂を設立。

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