インスタントメッセンジャーの世界覇権をめぐる動きは、デジタル時代の競争戦略という意味で面白いと思います。現時点では、「WeChat」「LINE」「WhatsApp」「カカオトーク」の4つが世界の覇権を狙って戦っている状況です。「WhatsApp」はアメリカで最も使われているインスタントメッセンジャーです。
苛烈すぎる中国マーケットの競争
この状況で、中国はどう戦っていくのか。友人のテンセントの幹部によると、当然、LINEの研究もしていて、彼らに劣っている部分があることを認めつつも、「自分たちも今よりグローバル市場で戦いたいが、戦略リソースの8割は、国内のモバイル市場に注がざるをえない」と語っていました。
何しろ国内の競争があまりに熾烈なので、海外に力を入れている間に足元をすくわれてしまうおそれがあるということです。「ウェイボー」もアリババが出資をしたので巻き返しを図ってくるでしょうし、そのほかにもいろいろなプレーヤーが「WeChat」の切り崩しにかかってきています。まずは国内におけるスマホへの変化の対応に確実に勝つことを最優先にならざるをえない、というわけです。中国国内の競争の激しさは、参入してみないとなかなかわかりません。日本企業では、楽天もヤフーもZOZOTOWNも、最近ではGREEも撤退しました。
中国はネット時代に国境を設けている数少ない国です。国民はツイッターもフェイスブックも使えないし、読めないメディアもああります。つい最近まで、外国人はEコマースを運営することが禁じられていました。つまり、中国のネット産業は規制産業なのです。国内の企業を守るための保護政策の塊です。
日本の携帯メーカーと同じ罠にはまる?
共産党政権のコミュニケーション保護のために始めた政策だと思いますが、結果としてネット産業自体はとてつもなく大きくなり、トップ企業はアジア最大級の利益を生み出すまでに成長しました。こうした条件は、中国以外の海外では再現不可能です。よって海外進出への成長戦略は必要だけれども、今は「WeChat」に絞って国内で戦っていくのがベストな戦略なのでしょう。
ネットは本来、オープンなものですが、中国ではクローズドな形で体制的なビジネスの組み方をします。閉じた世界での体制的な「WeChat」の拡大戦略は中国的です。中国が国内の競争に集中している状況は、自国のために作り込みをしすぎて、他国での競争力がなくなる典型的な展開にも見えます。まるで一時代前の日本の携帯メーカーのようです。日本国内での競争が中心で、とにかく今ここで頑張るしかない。そうこうしているうちに、サムスンとアップルが世界を制覇してしまった、そんなケースを思い出させるものがあります。
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