「電王戦」に見た、人だからこその創造性 機械に取ってかわられるか「やはり人が大事」か?

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目的が変われば機能も、機能が生まれれば目的も

実際のところはわからない、と言いたいわけではない。そうではなく、ある現象や出来事がどのような機能を持つか考えるためには、そもそもその機能を必要とする大もとの目的や全体の枠組みを、先に決めておかなくてはならないはずなのだ。

プロ棋士とコンピュータ、異種格闘技から何が新たに見出されるか?(撮影:今井康一)

当然、目的が変われば必要な機能も変わるし、新たな機能を考え出せれば、逆に別の目的や枠組みが見えることになる。

人に期待される創造性とは、こうした目的の革新、新たな機能の発見・発明にあるのではないか。少なくともそれは、コンピュータのさらに先を読むという類のものではない。

人と機械の戦いを考えるに際しても、この見方を応用してみてはどうだろうか。

将棋における人と機械との戦いでは、将棋という決められたルールの下で、両者が自らの勝利に向かって鎬(しのぎ)を削る。そうでなければゲームにならないが、この論理はビジネスの見地からすると危うい。ビジネスでは、むしろ現状の枠組みや目的自体の革新が必要だからである。

ラッダイト運動は、人と機械の戦いをいつしか乗り越え、やがて階級間闘争へとつながった。さらに、選挙権獲得など社会運動にも展開した。

将棋ソフトの開発者たちは、当然その知見を他分野に応用できると考えているだろうし、プロ棋士にとって、コンピュータとの戦いは異種格闘技のような刺激なのかもしれない。

両者の戦いの中で、いつしか将棋にも、どちらかの勝利ではなく、一長一短でもなく、新手でもなく、もっと別の何かが見出されるかもしれない。そんな可能性に注目してみたい。

初出:2013.5.25「週刊東洋経済(沸騰!エアライン&ホテル)」

 

(担当者通信欄)

記事の中に載せた写真は、名古屋のお祭りの様子で、実はこんな写真もありました。これはご本人も楽しそうと言わざるをえない。

この信長のほか、秀吉、また濃姫なんかも登場するようです。土地の記憶を現代によみがえらせたり、同じ地域に住まう人の親睦を深めたり、このようなお祭りの意味はいろいろと考えられますが、どんな意味があろうとも、とにかく参加したら面白いであろうことだけは、確かです。

仮装の中にきっとある遊び心が、新しいものをうみだしているとしたら……そんなことをふと考えてみたりもしました。

さて、水越康介先生の「理論+リアルのマーケティング」、最新記事は2013年6月17日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、会社を変える会議)」に掲載です!
【イノベーションのジレンマ、イノベーターのジレンマ】
タイトルを聞いたことのある方もきっと多い『イノベーションのジレンマ』をとりあげて、製品を取り巻くある種のしがらみ、「バリュー・ネットワーク」の観点から技術革新との付き合い方を考える。

 

 
マーケティングの基本から勉強してみたい人のために!専門用語に混乱しない、親切設計の入門テキスト。水越康介・黒岩健一郎『マーケティングをつかむ』(2012年、有斐閣)
 
 
企業や市場の潜在性を掘り起こすための新しいマーケティング概念を提示!京都花街、マルちゃん鍋用ラーメン、はとバス、ロック・フィールド……水越康介・栗木契・吉田満梨/編『マーケティング・リフレーミング』(有斐閣、2012年)


 

 


 

水越 康介 経営学者

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みずこし こうすけ / Kosuke Mizukoshi

1978年生まれ。2000年神戸大学経営学部卒業、2005年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。2005年より首都大学東京、同大学院研究員を経て、2007年から首都大学東京大学院 社会科学研究科 経営学専攻 准教授。専攻はマーケティング論、商業論、消費者行動論。学術分野のほか、民間シンクタンクでの研究活動などを通して、新しい価値の創造を目指す。教育活動として、ユーザー参加型製品開発プロジェクト「Sカレ」の参加学生指導などにも力を注ぐ。著書に『企業と市場と観察者――マーケティング方法論研究の新地平』(有斐閣、2011年)、『Q&A マーケティングの基本50』(日本経済新聞出版社、2010年)、編著に『マーケティング・リフレーミング――視点が変わると価値が生まれる』(有斐閣、2012年)、『仮想経験のデザイン インターネットマーケティングの新地平』(有斐閣、2006年)、共著に『マーケティングをつかむ』(有斐閣、2012年)、『病院組織のマネジメント』(硯学舎、2010年)、『ビジネス三國志 マーケティングに活かす複合競争分析』(プレジデント社、2009年)、『マーケティング優良企業の条件 創造的適応への挑戦』(日本経済新聞社、2008年)。 ⇒【Webサイト】【Twitter(@mizkos)

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