三井:先日、中原さんが野田一夫先生(日本総研名誉会長)と対談している記事を拝見いたしました。野田先生ってすごい方なんですね。「天下の孫正義さん」が師と仰いでいるなんて、私は全然知らなかったです。
話が少し脱線しましたが、自然科学の世界から見ると、経済学の世界では合理的でない学説や理論が多いと……そんなことをお二人でお話しされていましたよね。
中原:三井さんの「下調べ力」には頭が下がります(笑)。経済学の世界では、「鶏が先か、卵が先か」の議論が結論の出ないまま成り立ってしまうことが多いのですが、実際の経済は決してそのようには動いていかないものです。経済にとって本当に重要なのは、「どちらが先になるのか」ということなのです。すなわち、実質賃金の上昇よりもインフレが先に来ては、決していけないということです。
科学の世界では、決して「原因」と「結果」がひっくり返ることはありません。経済学の世界で「物価が上がれば、経済が良くなる」などと主張している学者たちは、私から見ると、科学の世界で「引力が働いているから、りんごが落下する」というべき現象を、「りんごが落下するから、引力が働いている」といっているのと同じようなものなのです。
「理論的主柱」クルーグマン教授も自説の誤りを認めた
三井:政府はアベノミクスの成果として、有効求人倍率が高いこと、税収が増えたこと、倒産件数の減少などを強調していますが、中原さんの本を読んでいるとすべてデタラメなことがわかりますね。
中原:そのとおり、全部デタラメな主張です。これらについては近年の拙書でも数回取り上げたことがありますが、2015年の正確な統計データが出てきているので、検証の意味も含めて、もう1度だけ今回の拙書で説明しています。私たちはこれらの数字がどのような背景によってつくられているのか、しっかりと認識する必要があるでしょう。
三井:最近のクルーグマン(米プリンストン大学教授)は、アベノミクスに対する情報発信をしなくなったようですが……。
中原:私はアベノミクスが始まって以来、その理論的支柱であるクルーグマンの理論が間違っているといろいろなところで指摘してきましたが、そのクルーグマンはすでに自説の誤りを認めるようになっています。2015年の秋頃には「日銀の金融政策は失敗するかもしれない」と発言を修正したのに加え、2016年に入ってからは「金融政策ではほとんど効果が認められない」と自説を否定するような発言にまで踏み込んでいます。詰まるところ、日本における経済実験は失敗したのだと判断しているのです。
三井:結局は、中原さんの提案していた地道な経済政策のほうが正しかったということですね。
中原:正しいかどうかは別にして、私が一貫して主張してきたのは、「日本は地道に成長戦略を進めていきながら、米国の景気回復と世界的なエネルギー価格の下落を待つべきである」というものでした。「辛抱しながら3年~5年くらい成長戦略を進めていくうちに、米国の景気回復と世界的なエネルギー価格の下落によって、日本人の実質賃金は上がり、人々の暮らし向きも少しは良くなるだろう」と予測していたからです。
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