今の日本に求められているのは、かつてドイツのシュレーダー首相が行ったような構造改革、すなわち成長戦略です。2000年代前半のドイツは社会保障が手厚いゆえに失業率が10%台に達し、「欧州の病人」と呼ばれていました。そのドイツが1強と呼ばれるほどの経済強国になれたのは、シュレーダー首相が2002年~2005年にかけて国民の反対を押し切って構造改革を断行し、ドイツの生産性を引き上げることができたからなのです。そして今や、メルケル首相はその功績の恩恵を最大限に享受しているというわけです。
なぜドイツのような構造改革が進まないのか?
三井:ドイツのようなお手本があるのに、なぜ日本では構造改革が進まないのですか?
中原:それは、少なくとも小泉首相以降の歴代首相には成長戦略をやる気がなかったからです。成長戦略の成果が目に見えて現れるには、早くて5年、普通は10年の年月を要するといわれています。政治にとって優先されるのは、成果が出るのが後になる政策ではなくて、目先の選挙で投票してもらえる政策を実行することなのです。だから、歴代の首相は成長戦略において総花的な政策を掲げて賛成しているようなそぶりを見せてきましたが、結局のところ真剣に取り組もうとはしなかったわけなのです。
三井:中原さんはこれまでずっと実質的な所得の推移がいちばん大事だとおっしゃってきましたが、今後は実質賃金が上昇すると見ているそうですね。
中原:2016年に入ってドル円相場が円高基調に転換することによって、輸入物価も下げに転じるようになってきています。すなわち、国民の生活水準を決定づける実質賃金が押し上げられる環境が徐々に高まっているといえるのです。実際のところ、円高基調が進行するにつれて、実質賃金が上昇に転じ始めています。2016年8月までの統計では、実質賃金は7カ月連続の上昇をしていて、アベノミクスが始まって以来、初めての良い環境になってきているのです。
しかしそこで注意すべきは、政府が「アベノミクスの成果で、実質賃金が上がり始めた」と支離滅裂な見解を言い始めることです。アベノミクスが敵としている円高こそが、円安によって失われた家計の可処分所得を取り返しているのであり、消費を少しは押し上げる呼び水になるということを、そろそろ政府や日銀も認識する必要があるのではないでしょうか。
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