楠木:調子に乗りました(笑)。息子さんにもお目にかかったことがありますが、ご子息は逆に草食系のイメージですね。スタンフォード大学のコンピュータサイエンスをご卒業と伺いました。オタク、英語で言うとギーク(geek)のタイプですか。
石黒:本人もギークだと言っているし、仕事で朝から晩までゲームを作って、夜はゲームで遊んで、暇があればアニメを見たりマンガを読んだりという生活ですから、ギークでしょうね。
楠木:好き嫌いで言うと、石黒さんは昔からギークというかエンジニアがお好きだそうですね。お仕事にも関連しますが。
石黒:大好きです。
楠木:でも、石黒さんご自身はエンジニアではいらっしゃいませんよね。
石黒:はい。昔の日本にはハードウエアエンジニアぐらいしかいなかったので、最初の就職先のブラザー工業で働いていたときに、エンジニアの方と一緒に仕事をしたのが最初の出会いです。十把一からげにはできませんが、ちょっとした傾向はありますね。やけに興味に突っ走るとか、口下手だとか。
楠木:なんかポケットにいっぱいペンを挿していて、なぜか蛍光ペンのキャップを閉めずに挿しちゃうから、シャツの胸のあたりがいつも黄色くなっている感じ(笑)。ファッションとかどうでもよくて、とにかくもう自分の興味分野にダーッと行っちゃう。
石黒:先生、また言いすぎですね。勝手なイメージを作っています(笑)。とにかく私は営業部にいたのですが、マーケティング部がなかったので、「こういうスペックにしてくれとか、こういう仕様が欲しい」とエンジニアたちに伝えるのも仕事のひとつでした。だけど、彼らは理由もなく「ヤだ」と拒否するんですよ(笑)。「ヤだって言われても、作ってよ」「いや、ヤだよ」というやりとり。
なんとか動いてもらわないと仕事ができないので一生懸命やりました。おまんじゅうを持っていってお願いしても、「あ、まんじゅう」で終わり、みたいな(笑)。でも、やっぱりすばらしい人たちですよ。自分というものをちゃんと持っている。レベルも高いし、すばらしいものをつくる力がある。最初は意思疎通が難しいけれど、こっちが「この人すごいな」と思っていることが伝わると、急に気を許してくれるところがありますね。
楠木:今の話をもう一段抽象化すると、エンジニアのどういうところがお好きなのですか。
石黒:ちょっとだけ付き合うと「変かな」と思うのですが、グーンと付き合ってみると、ものすごく純粋で、製品やサービスがものすごく好きだとわかるのです。自分が開発している仕事がよくなることばかり考えている、そんな一途なところが好きですね。
日本は不幸なことに、彼らと市場の橋渡しする人たちがいない。エンジニアは開発を一生懸命にしますが、「ちょっとユーザー寄りにして売れるものにしよう」という姿勢が欠落しがちです。う~ん、というより、ユーザーのことを語ってくれる人が少なすぎるからなんですけどね。だから私はその橋渡しのような仕事をしているのです。作ったものがメチャメチャ売れたりすると、お互いにものすごくうれしいですよ。
彼らは、製品が売れないと「自分のことをわかってくれる人は、世の中にあまりたくさんいない」と思いがちなのですが、いやいや、世の中のことを私たちがわかろうよ、という感じです(笑)。私の場合は、わかってあげられるというより、ただ彼らが好きなのです。こちらが好きになれば向こうも好きになってくれますよね。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら