LBOファイナンスの変調 −−「貸し手優位」の市場へ大変貌 既投資案件の評価に厳しい目
足踏みするPE 進む?優勝劣敗
トムソン・ロイターの調べによると、07年度(07年4月~08年3月)の日本のM&Aの取引総額は12兆9144億円。前年度と比べて26・3%減少した。うち、LBOの金額は9439億円、35件。金額は前年度の2兆5450億円から大きく減少した(1ドル=100円換算)。
このうち、LBOファイナンスが絡む1000億円台の案件は、ツバキ・ナカシマにアリスタライフサイエンス。しかし、大型案件と期待された三洋半導体は成約に至らず、大型案件は数えるほどしかなかった。
数少ない大型ディールの中で、最近注目された案件の一つが、大手プライベートエクイティ(PE)、ペルミラによる農薬メーカー「アリスタライフサイエンス」の買収だ。3月に完了した買収総額は2500億円。LBOファイナンスの総額は1850億円に上る。昨今にはない大規模なLBO買収であった点もさることながら、ファイナンス上はシニアのリードアレンジャーにメガバンク3行が入っていないことが注目された。
リードアレンジャーはJPモルガン、リーマン・ブラザース、あおぞら、それにウニ・クレディトの4社。ペルミラはエクイティに1000億円を投じ、シニア1050億円と、アジアでは最大規模となるメザニン450億円がついた。シニアは3トランシェに分かれ、いずれも期間7年。Tiborなどに225~275bpのスプレッドが乗せられた。メザニンのシニア部分のスプレッド水準は500bpだったようだ。それ以外に運転資金と追加買収資金用に別途350億円の資金枠を設けたほか、シニア、メザニンは円、米ドル、ユーロの3通貨で調達したのも大きな特徴だ。
ペルミラ・アドバイザーズの白石智哉社長は「サブプライム問題の影響が出ていた時期だったが、資金調達はまったく問題なかった」と語る。
ただ、ここ数年、相次いで東京にオフィスを構え、国内企業から「黒船襲来」と警戒されたPEの動きは大騒ぎしたほど派手なわけではない。ペルミラのアリスタ案件にしても05年に同社が東京に進出して初めて成約した第1号案件だ。
欧米の大手PEのうち、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)は06年4月に日本法人を設立。07年7月にみずほコーポレート銀行常務の蓑田秀策氏をCEOに迎えた。GE出身の山川丈人氏と共同CEOを務めていたが、その山川氏は「一身上の理由」で07年末に退社。
今のところ案件は07年5月にオリエント・コーポレーション向けの優先株200億円を引き受けたのみ。ただ、これは「KKRの通常の投資パターンとは違う案件」(蓑田氏)で、本格投資はこれからだ。
一方、日本企業に対し、すでに9件の投資実績のあるカーライル・グループは、06年12月に手掛けたコバレントマテリアル(旧東芝セラミクス)を最後に新規投資が止まっている。01年に設定した1号ファンド(500億円)はすでに投資を終え、06年設立の2号ファンド(2156億円)が新規投資の中心となる。
平野正雄日本共同代表は「07年度は1号ファンドの投資回収をかなり精力的にやってきた。新規投資は過剰な価格競争に参入せず、あえて手控えていた」という。
日本のLBO市場の歴史はたかだか10年ほど。「PEも過去の成功体験は通用しない。これから優勝劣敗が進んでいく」(メザニンの笹山氏)。わずかな案件にPEが入札で殺到する過当競争は当面続きそうだ。