LBOファイナンスの変調 −−「貸し手優位」の市場へ大変貌 既投資案件の評価に厳しい目
貸し手優位の市場へ変貌 スプレッド等条件は正常化へ
理由はどうであれ、結果的に外銀の引き受け余力が小さくなっている状況は、シニアローンの出し手である邦銀にとって追い風だ。三井住友銀行ストラクチャードファイナンス営業部の村岡博之副部長は「貸し手の数が減っている一方、案件の数は増えている。今のマーケットはレンダーフレンドリーだ」と風向きの変化を感じ取っている。
サブプライム問題が深刻化する2007年前半までは、案件が少ないため、レバレッジをかなり利かせた案件にもかかわらず、ローン競争が激化。シニアの最上位のトランシェで、一時100bp台半ばから100bp台後半にまでタイト化が進んだスプレッドは、「200bp以上はとるマーケット」(三菱東京UFJ銀行の小林真レバレッジドファイナンス室長)へ大きく様変わりした。
EBITDAに対する買収価格の倍率(マルチプル)は10倍を超える案件もこれまで珍しくなかった。つれてシニアローンが埋める部分の倍率も高くなっていたが、「1~1・5ノッチ下がって、6・5倍でできていたものが5倍程度になっている」(カーライル・グループ日本共同代表の平野正雄氏)状況だという。DEレシオも「1対1に限りなく近いマーケット環境」(カーライルの山田氏)に沈静化しつつある。
過熱する米国市場で流行した「コベナンツライト(フリー)」と呼ばれる財務制限条項の緩和されたローン。「すんでのところで日本に導入されかかった」(投資銀行幹部)が、結局導入される前にマーケットがはじけ、「今は死語になった」(同)。金融市場の混乱を契機に、過熱ぎみだった日本のLBO市場も「正常化」の過程をたどっている。
ただ、メガバンクによってLBOファイナンスに臨むスタンスの差も微妙に出始めている。
「3月の“月間MVP”は三菱東京UFJ銀行じゃないか?」
LBOファイナンスを手掛けるある金融機関の担当者の間で、最近こんな会話が交わされた。
3メガのうち、最近積極姿勢が目立つのが三菱東京UFJ。みずほコーポレート銀行、三井住友銀行に比べ、この分野で相対的に出遅れていたが、今、大きく巻き返しに出ている。同行の小林氏は「08年は07年と比べて、ローンサイズで100億~500億円の中規模の案件が出てくる。そういう案件を確実に仕上げていきたい」と話す。同室を立ち上げたのは07年6月。現在24人のスタッフも「今年中に30人に増強する」(小林氏)と陣容の強化を図っている。
これに対し、みずほCBとともに先行して市場を牽引してきた三井住友は「07年度までは右肩上がりの成長だったが、08年度は優良案件をきちんと取り込んでいこうというスタンス」(前出の村岡氏)という。三菱東京UFJの積極さと比べると、やや慎重な姿勢に転じているようだ。
一方、以前からLBOファイナンスを収益柱の一つと位置づけていたあおぞら銀行は、中規模案件に特化していく姿勢だ。同行レバレッジファイナンス部の大見秀人部長は「LBOファイナンスは引き続き魅力的なビジネス。メガバンクの引き受けレベルで競争できないが、50億~100億円の比較的小ぶりな案件を積み重ねていきたい」と話す。
メザニンを活用する余地も出ているようだ。687億円のファンドを設立し、これまで3件、計130億円のメザニンファイナンスを実行しているGCAサヴィアングループの「メザニン」笹山幸嗣代表は「投資のペースは決して悪くない。シニア、エクイティが縮み、メザニンがより必要とされる状況になっている。メザニンにとってフォローだ」と語る。