資生堂、海外大型M&Aの重し 米ベア社を減損、始まった“負の遺産"解消

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ベア社が得意とするのは、ミネラル100%で作られる「ベアミネラルファンデーション」などの、海や鉱石に含まれるミネラルを配合したメークアップ製品。当時は「無添加」「オーガニック」などの自然派化粧品が世界中で浸透し始めており、この分野が手薄だった資生堂にとっては、同買収でブランドのポートフォリオを補完する狙いがあった。

収益力の高さも、ベア社の大きな魅力だった。買収前に開示されている08年12月期の決算は、売上高5.56億ドル、営業利益1.75億ドル(営業利益率31%)。日本の化粧品・トイレタリー(日用品)メーカーの営業利益率が平均で5~10%程度であることを踏まえると、その収益性の高さが際立つ。女性CEO自らが出演するテレビショッピングで認知度を高める一方、売上高の8割は百貨店をはじめとする小売り事業で稼ぐ。このビジネスモデルが軌道に乗り、順調に業容拡大を続けていた。

ベア社の業績、当初計画を下回る

ところが、買収後約3年間のベア社の業績は芳しくない。12年12月期の売上高は、6.2億ドル(前年同期比0.6%増)、営業利益は0.93億ドル(同22.5%減)で、本拠地の米国を中心に当初の計画を大きく下回っている。海外への投資を加速している影響もあるが、30%を超えていた営業利益率も、直近で15%まで低下している。

本拠地の米国で不振に陥った原因のひとつは、広告宣伝での路線変更だ。のびしろの大きいとみた百貨店や化粧品専門店での売り上げ拡大に向け、従来のテレビショッピングやインフォマーシャルからテレビCMへと投資の比重を移したが、ブランドイメージの定着が進む一方、製品の具体的な機能や特徴が伝わりにくくなり、店頭販売の拡大につながっていない。ミネラル化粧品への参入企業が増えていることも逆風になり、米国市場でのプレゼンスを落としている。

米国での事業が振るわない中、それ以外の国での展開も思うように進んでいない。大きな痛手となったのは、成長率の大きい中国だ。買収時には早期の進出をもくろんでいたものの、「薬事上の問題」(資生堂)でいまだに展開できずにいる。

12年12月時点で残存していたベア社ののれんは、約800億円。取締役会においても、同社の収益力の低さや減損の必要性を指摘する声が、社外取締役らから上がっていた。結果、「ベア社の将来性を考え、先送りすることなく、今減損することが適切と判断した」(資生堂)。

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