都市鉱山という「都市伝説」
日本には世界一の都市鉱山があるという報道がよくあるが市場に販売された製品からレアメタルやレアアースをリサイクルで回収するのは今の日本では、ほとんど経済性がない。つまり、市場に出回っている電子部品から回収してペイできるレアメタルは貴金属(金、銀、パラジウムなど)だけである。
いかにもわれわれの家庭にあるIT家電や携帯電話から、レアメタルが回収できるような錯覚を持っている人が多いが、少なくとも実現には20年から30年はかかる。年々増加する需要増を、過去のスクラップ供給で賄われると考えるのも、ありえない話である。回収コストと処理コストを比較すると、現時点では明らかに回収コストの方が高いから経済合理性に合わないことは火を見るよりも明らかだ。都市鉱山という誤解をまねく造語も、メディアが番組用に使っているだけの話である。
また、世界の鉱山開発を進めればレアアースやレアメタルはいくらでも生産できるという思い込みがあるが、年数がかかるという前提が無視されている。鉱山開発は資源探査から始めると実際の生産までには20年ぐらいは必要だ。その間に市場が陳腐化するリスクもあるから鉱山開発はそうは簡単なものではない。レアメタルはメジャーメタルと比較すると市場規模が小さいので、開発経費をかけるにはリスクが高いのである。
南鳥島のレアアース開発はこの典型的なケースだ。深海の5000メートルの海底から海洋資源を運び出す技術を誰が開発してくれるのか?自民党の海洋開発ロマンをテーマにした会議では三井海洋開発がその可能性を議論していたが学術的には議論の価値があっても実際に実行する企業はあり得ないと確信する。
含有率の希少な元素を回収する事は良いとして、大量に発生する残渣の処理は誰がするのか?(ディスプロ1トン採取するのに165倍~587倍の残渣が発生)フランスかアメリカが代行してくれるのなら話は別だが日本にそんな技術があるとは聞いたこともない。さらに環境問題がすべての鉱山開発を困難にしているから、開発スピードはさらに遅くなる事は言を待つまでもない。メディアの報道はその場限りでも良いかもしれないが責任ある企業家なら出来もしないことをコミットするのは命とりである。
評論家や官僚の誤解・曲解・思い込みは確信犯か知能犯
なるほど、世界の資源制約が進んでも「日本は技術立国だから代替材料開発で危機を乗り越えられる」という希望的観測もある。だが、これも独断的な誤解で、すでに代替できている材料はほぼ出尽くしているのが現実だ。一部の評論家や官僚の一部が恣意的に「日本の技術立国伝説」を喧伝しているだけである。
中国のレアアースの輸出制限が出たので中国を牽制するために、面白半分でメディアが取り上げているケースも散見される。代替技術があるが、これらはいずれも20年前から研究していたもので、逆に言えば、代替技術の開発は2年や3年で達成できない。長年かかってやっと成功した代替技術が現在のニュースになっていることが多い。現場の研究者にとっては常識だが産官学商と政治家の一部にも代替技術開発に時間がかかることが判らない人がいるのだろうか?こんな話は少し調べればすぐに分かることある。評論家や官僚の一部は多分確信犯的、ないしは知能犯的に大袈裟に「代替材料の開発に成功した」と言っていると思った方が良い。
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