レアメタル、レアアース問題にはウソが多すぎる ハイブリッド車や電気自動車が環境に優しい、というのは思い込み

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資源問題はあるサイクルで資源ブームになったり、景気が冷え込むと全く振り返ることがなくなったりする。だが長期的な視点で推進することが大切だ。実は私自身もレアアースの仕事を40年近く続けているが、つい10年ほど前までは目立たない存在で日陰者扱いだった。今では、有難いことにレアアースが注目されて、子供でも名前ぐらいは知るようになったが市場の規模はわずか世界で12万トンしかない。ニッケルは10倍の120万トンだし、銅なら1700万トンもあるからレアアースがいかに小さな市場であるかがわかるだろう。仮にレアアースがトン当たり1万ドルで計算をしても世界市場はわずか12億ドルだ。ニッケルが200億ドルで銅なら900億ドルになるから、レアアースは正にニッチな市場なのである。電子材料も機能性材料も素材の世界は縁の下の力持ちで陽の目を見たことはほとんどなかったといっても、過言ではない。

資源より、技術革新に注目せよ

資源開発はリスクが高いから生き金を使うべきである。なぜか中国がレアアースといえば大した市場でもないのに価格を操作したり買い占めたりするのが不思議だ。何か特別な貴金属のような扱いをしたがるが、実は単なる工業用素材である。

元々、大した使い道のなかったレアアースの用途開発をしてきたのは日本の研究者たちである。希土類磁石がハイブリッドカーや電池材料などのハイテク材料に使い始めた歴史はそれほど長くはないが、環境経済が重要視される中で今後は重要視されることは間違いないだろう。ビジネス感覚を優先させるなら、少なくともしばらくはレアアース資源の心配をする必要はないので、本来の日本の強みを生かしたレアアースの用途開発に力を入れた方が良いと考えている。それでも資源が心配ならレアアース資源を持っている海外企業を買収する方が話は早い。その資源企業に若い世代を送り込んで10年後に資源国家日本を目指せば良いのだ。中途半端にレアアースの資源開発に注力するのは「死に金」になると考えるべきだ。

最後に、日中間の問題について言及したい。2010年から現在に至るまで、尖閣諸島の問題から発生したレアアースの禁輸が両国の関係をギクシャクしたものにしてしまった。2013年は習近平体制が確立し経済、政治とも舵取りが微妙な環境の中、東アジアの二大国がいがみ合っていても何の利益もない。

レアアースは日中関係の象徴であり、双方が協力して補完し合えば良いのだ。
日本は強みを生かしてレアアースの用途開発を進め、環境技術(放射性物質の処理技術など)で協力する部分もあるだろう。中国は国内資源の安定的な運用に加えて海外のレアアース資源の開発を日本企業と協力しながら安全な開発に注力すればレアアース取引を安定化する事にも繋がるだろう。世界のレアアース市場12万トンの内、50%は日本が消費しているのだから東アジア地域に資源と技術を融合させたレアアース産業を基礎とするハイテク産業の一大基地を構築することで、欧米の産業を凌ぐ東アジア共同体(「新大東亜共栄圏」)を構築するという発想もあるのではなかろうか。

産業界と行政、学会では立場も違う。ましてや大新聞の報道や権威ある評論は目的が違うので、時として誤解と曲解と思い込みが混在するケースもあるだろう。今回は普段から気になっていることを、主に経済性の視点から言わせてもらったが、30年以上も現場を踏んでいるレアメタルマンの意見として、参考にして頂ければ幸甚である。

中村 繁夫 アドバンストマテリアルジャパン社長

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なかむら しげお / Shigeo Nakamura

レアメタル(希少金属)の専門商社「アドバンスト・マテリアル・ジャパン代表取締役社長。中堅商社・蝶理(現東レグループ)でレアメタルの輸入買い付けを30年間担当。2004年に日本初のレアメタル専門商社を設立。著書に『レアメタルハンター・中村繁夫のあなたの仕事を成功に導く「山師の兵法AtoZ」』(ウェッジ)、『レアメタル・パニック』(光文社ペーパーバックス)、『レアメタル超入門』(幻冬舎新書)などがある。

 

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