「肥満」より"致死性"が高いのは「孤独」だった 会話がないと人間は死んでしまう
「それでね、先週、81歳の誕生日だったんだけど……」
電話の向こうの女性は、明るい調子で話し続けた。
「まあ、ベリル、誰とお祝いしたの?」
アリソンはさりげなく聞いた。
「誰とも。私……」。
さっきまで陽気だったベリルの声が、急に暗くなった。そして誕生日だけでなく、何日も一人ぼっちで家にこもっていること、この電話をかけるまで1週間以上誰とも話していなかったことを、震える声で打ち明けた。
ここはイングランド北西部の海辺の町ブラックプール。地味なオフィスビルの一室にある「シルバーライン・ヘルプライン」には、似たような電話が週に1万本近くかかってくる。ここは「誰かと話したい」という、高齢者の最も基本的な欲求の一つを満たす24時間体制の電話相談室だ。
19世紀の米国の詩人エミリー・ディキンソンは、孤独を「顧みられることのない恐怖」と表現したが、孤独は人の心を静かにむしばんでいく。だが近年の英国では、孤独はそれ以上の問題とみなされるようになってきた。公的資金と関心を注ぐべき深刻な公衆衛生上の問題だというのだ。
「孤独は公衆衛生の問題だ」
英国の数十の都市では、地方自治体や国民保健サービス(NHS)の協力のもと、孤独を防ぐプログラムが運営されている。消防隊は担当地区の家庭を訪問したとき、火の元の安全だけでなく、社会的孤立を示すサインがないか調べる訓練を受けている。
「地方自治体から保健省、メディアまで、この問題への認識が急激に高まっている」と、英国最大の高齢者支援団体エイジUKオックスフォドシャー支部のポール・キャン代表は語る。キャンは5年前、ロンドンに「孤独追放運動」も立ち上げた。「誰もが孤独の問題に関心を持つべきだ」。
孤独が身体の機能や認知能力の低下、さらには病気につながることを示す研究論文も増えている。65歳以下の場合、孤独が死に与える影響は、肥満よりも大きい。