「肥満」より"致死性"が高いのは「孤独」だった 会話がないと人間は死んでしまう

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「孤独が健康と自立に与える影響は、公衆衛生上の重大な問題だ」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のカーラ・M・ペリッシノート医師は断言する。「高齢者の孤独感や、社会的のけ者にされているという感覚を無視することは、もはや医学的にも倫理的にも許されない」。

英国と米国では、65歳以上のほぼ3人に1人が一人暮らしをしている。米国では、85歳以上の半分が一人暮らしだ。また、両国の60歳以上における孤独の蔓延率は10~46%に達する。

寂しいことは恥ずかしい?

英国の政府、民間、ボランティアが孤独の問題に取り組むなか、医学的な研究も進んでいる。マサチューセッツ工科大学(MIT)の神経科学者らは、今年2月に学術誌セルに掲載された論文で、孤独感を生み出す脳の領域を特定した。背側縫線核(はいそくほうせんかく、DRN)と呼ばれる部分で、通常はうつ病とのつながりで知られる。

それによると、複数のネズミを一緒に飼っているとき、ネズミたちのDRNのドーパミンニューロン(ドーパミンを産生する神経細胞)は比較的落ち着いている。ところが一時的に仲間から引き離した後、再び一緒にすると、このニューロンの活動が著しく高まる。

「(孤独感の)細胞基質を初めて突き止めた」と、研究に参加したMITピカワー学習・記憶研究所のケイ・タイ助教は語る。「そして24時間孤立させた後にどんな変化が起きるか観察した」。

シカゴ大学認知・社会神経科学研究所のジョン・カシオポ所長は、1990年代以降、孤独について研究してきた。彼に言わせれば、孤独は渇き、空腹、痛みと同じように健康に関わる症状だ。

「孤独は空腹と同じくらい、人間が当然に持つ感覚だ」とカシオポは指摘する。それなのに「孤独」という言葉そのものに、社会性の乏しさや自立性のなさのようなネガティブなニュアンスがある。それが孤独を認めるのは恥ずかしいという意識につながる。

難しい慢性的な孤独の解決

それはシルバーラインにかかってくる電話にもよく表れている。ほとんどの人は、七面鳥の焼き方を教えてほしいなど、何らかの口実をつけて電話をしてくる。1日に何度も電話してくる人も多い。「いま何時かしら」と、1時間おきに電話してくる女性もいる。だが、「孤独で寂しい」と率直に認める人はめったにいない。

シルバーラインに電話をしたいと思うのは健全な衝動だと、カシオポは言う。シルバーラインのソフィー・アンロドリュース代表は、3年ほど前にサービスを開始した直後、洪水のような電話の数に驚いたという。現在、ブラックプールの相談室には、1日1500本もの電話がかかってくる。

だが、アンドリュースにとって一番気がかりなのは、シルバーラインにも電話をして来ない人、孤独に打ちのめされて電話器を取る気にさえなれない人だ。「最も見つかりにくい人たちに、もっと注意を払わないといけない」。

カシオポは、シルバーラインのような活動を称えつつ、孤独の問題は複雑で、解決は容易ではないと警告する。電話をすれば一時的にさびしさは忘れられるかもしれないが、慢性的な孤独が解決されることはない。

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