日銀よ、市場の「恐喝」にビビったら負けだ 日米の金融政策決定会合を大胆に予測する

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ではどうするか。

実体経済のための金融緩和は継続する。それ以外は排除する。副作用の根源を断つ。この「3つの原則」を貫くのだ。

長期金利ターゲット+投機家対策+ガバナンス

金融緩和継続だから、低金利は維持。マイナス金利はゼロにしたい。ただ、優先順位は低く、2段階で行くなら、次に回してよい。よって、マイナス金利は現状維持。

投機家のための緩和は行わない。だから、ETF買い増しという誤った政策は廃止する。売却はしないが、買い入れは中止する。ただし、他の政策との混濁を避けるために、これも次回、あるいは次々回に回す。

ここでいう副作用とは、国債を大量に買い上げすぎたことだ。そのために、国債の買い入れは増やさない。そして、イールドカーブがフラットになりすぎてしまったことだが、これは投機家の日銀トレードによるものだ。これを排除すればよい。

したがって、国債の買い入れ銘柄に制限を加える。まず、2年超の国債ではマイナス金利水準での価格での買い入れはしない。すべてゼロまたはプラス金利での買い入れに限定する。

また、新規発行から2年以内の国債の買い入れは行わない。「中古」の国債に限って買い入れする。これが投機対策の目玉だ。だから日銀トレードをやりにくくする。政府への新規発行国債の利回りによるガバナンス、政府財政のガバナンスも利くようにする。

しかし、これでは実体経済への緩和継続が難しくなる可能性がある。したがって、金利ターゲットを設ける。10年国債の金利は0.2%を上回らないように、そして、10年以下のイールドはなだらかにスムーズに下落(左下がり)になるようにする。これを今回から実施する。

金融政策とは金利コントロールだ。緩和とは金利引き下げ、低金利維持に尽きる。実体経済は長期金利が一番のベンチマーク。だから、これを0.2%以下に維持する。そして、それ以外は金融緩和に関係がない。ドル調達は助けるが、それは別の問題だ。

長期金利を0.2%以下に保つことができれば、投機家が一時的に金融市場を荒らしても、関係ない。負けてはいけない。最後は理屈が勝つ。10年物0.2%なら十分低い。世界的にイールドが再度立ってきた中で、為替への影響も、極端なものにはならないはずだ。金融市場の安定化のためにこそ、0.2%を死守する。

もちろん、0.2%は長期的には変動しうるし、させるべきだ。政府の財政リスクが高まれば、0.2%はかなりの低金利で、新発国債と日銀買い入れの金利差が拡大するだろうが、それこそがガバナンスだ。財政縮小で景気にマイナスという可能性はあり得るが、そこは腕の見せ所。微調整でしのぎ切る。

その安定を見たうえで、次はマイナス金利撤廃、ゼロ金利に戻す。
そして、これも無事ということはないだろうが、なんとか通過したら、そこでETF買い入れ漸減、テーパリングだ。ただし売却はしない。

要約すれば、長期金利ターゲットに、投機家対策を加え、さらに政府へのガバナンスも仕組んだものだ。

インフレターゲットについては、1%から3%の安定した物価水準を目指す。2%を1%から3%と柔軟化し、インフレ率がマイナスにならずに安定していれば、水準には拘らない姿勢を示す。

もともと物価上昇率は1%でも2%でも、為替以外にとっては関係ないし、2%にこだわっても、達成できない空約束よりは現実的に、実体経済の構造変化や環境変化を反映して変わるのであるから、インフレ率をマイナスにしない、ということにさえコミットすれば、物価安定化が本当の目的だから、それでよいはずだ。

「ビビる日銀」と揶揄して来たが、だれが総裁になっても審議委員になっても、実行することには恐怖を伴う。それを感じない不感症はビビるより始末が悪い。しかし、金融政策は限界まで来ている。限界になったら、開き直って、本質だけを、最も大事なものを守ることに集中するしかないし、自然にそうなるだろう。

今回の日銀の政策決定会合のサプライズは、日銀がついに肝を据えた、という形のサプライズであることを望む。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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