そこで、現在、投資家関係者、いわゆる市場関係者が(勝手に)日銀が行うと予想しているのは、イールドカーブのスティープ化だ。要は、短期金利と長期金利の差を拡大し、今の異常な長期金利のマイナスを解消し、とりわけ、10年超の20年、30年国債の金利を過度に下げない(今よりも上昇させる)ことだ。
これは理屈からはそうだ。しかし、日銀が素直な理屈で勝負できるか。ビビる日銀にはそれができないのではないか、と思う。
なぜなら、これは金融引き締めに他ならないからだ。
長期金利の上昇とは、実体経済にもっとも関係する貸出金利のベース金利が上昇することにほかならないからだ。
実際には、ここまで下がりすぎた長期金利を反映して貸出金利が設定されているわけではない。それには耐えられないから、債券市場の金利低下に貸出金利の低下は追いついていない。だから、緩和の効果は実体経済には生じていないのだ。
日銀は市場がグレることにビビっている
一方、金融市場は反応し、金融資産価格は上昇した。株価、地価の下支えはもちろん、直接的には社債価格が大幅上昇した。それで、多くの大企業は、超長期社債の大量発行に動いた。それが、足元の超長期金利急騰で発行(起債)を延期、中止している。しかし、彼らの投資行動に影響をするわけでない。社債で調達して、銀行借り入れを返済しておくか、キャッシュをためてM&Aを狙うか、不動産に間接的に投資するか、その程度の話であって、金融市場には影響はあるが、実体経済にはまったく影響がないと言ってよい。
したがって、長期金利のわずかな「正常化」は、実体経済には無関係、だから、日銀は恐れることなく、長期金利の上昇、イールドカーブの正常化を図ればよい。しかし、市場にビビっているのだ。
もし実行に移したら、結果はどうなるか。実は市場次第だ。幸運なことに、「日銀のイールドスティープ化」を市場はすでに織り込んでいる。だから、サプライズにはならない。金融引き締め、と解釈されてもおかしくないが、織り込み済みだから、それほど騒ぎにならないかもしれない。
しかし、騒ぎにならないかどうか、それはわからない。
だから、日銀としては、何も手土産なしに、「総括しました、わたくしたちの金融政策にはまったく問題ありません。外部環境が、原油が悪かった、日本社会が悪いんです、それなので時間が思ったよりもかかります」、と言った時に、「お前、自分の正当化だけしやがって」、と市場がグレて暴れることが怖いのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら