一流大学が広告を教える理由
中国に来て私がいちばんびっくりしたのが、北京大学や复旦大学などのエリート大学をはじめとする200以上の大学に「広告学科」が存在することでした。電通と中国教育部(文部科学省に相当)が共同で推進している中国広告教育支援プロジェクトをお手伝いする中で、私はこの「奇妙な現象」に気がつきました。
世界中を見渡して、アメリカでもヨーロッパでも日本でも、広告専門の学科を持つ大学は寡聞にして知りません。アメリカの大学でも、せいぜいジャーナリズム学部の中の専攻コースとしてPRや広告が教えられているぐらいでしょう。日本では、マーケティング学科を持つ大学すら少数派で、広告はマーケティングの中のひとつの「科目」として扱われており、まれに広告を研究するゼミがみられる程度です。私が時々教えに行くタイのチュラロンコン大学でも「商学部・マーケティング学科」のカリキュラムのひとつとして広告を教えているにすぎません。これが普通です。
そもそも、広告はアカデミズムの殿堂である大学という立派な場所で教えるべき「学問」ではないでしょう。ところがここ中国では、「コミュニケーション学部」(これも日本ではお目にかかれない学部です)の下部組織として「広告学科」を持つ大学が少なく見積もって200はあるのです。もちろん、大学院にも広告専攻があり、広告の研究者や専門家を育成しています。
いったい何を教えているのか?
では広告専攻の学科ではいったい何を教えているのでしょうか? そこでは、広告計画立案、広告クリエーティブの制作(コピーの書き方やアートディレクション)、メディア実務(プランニングやバイイング手法)が教えられています。まさに専門職養成のための職業教育と言っていいと思います。撮影・編集スタジオも完備しており、学生は実際に広告作品を作って広告賞などに応募しています。
以前、上海のトップ大学である复旦大学のジャーナリズム学院・広告学科の学部生の広告戦略のプレゼンテーションの審査をしたことがありますが、日本の広告会社の若手社員と遜色ない実力を持っていると感じました。
しかし、就職難の現在、広告学科卒業生がみんな広告会社やメディア会社に行けるわけではありません。また、复旦大学のようなエリート校の場合、広告会社へは就職せずに大学院で修士号を取得後に、中国の一流企業やグローバル企業のマーケティングマネジャー職を目指す学生が多いのだそうです。
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