若い貧困者を犯罪の「捨て駒」に使う悪質手口

「炊き出しに並んでいたら声をかけられた」

天職と思える仕事を見つけ、それにこだわるがゆえになかなか就職できない息子に対し、父親は連日、「ハローワークへは行ったのか」とプレッシャーをかけるだけ。もともと憎悪に近い感情を抱いていた父親から責められる日々は耐えがたく、アツシさんには収入が途絶えても実家に身を寄せるという選択肢がなかった。そして、ついに路上生活へ。一時は、地面に座ると骨が当たって尻が痛くなるほどにやせ細ったが、あるホームレス支援団体が主催する会合に参加し、自らの経験や心の内を打ち明ける機会を持つうちに、自暴自棄になっていた気持ちが次第に収まっていったという。

路上生活では、契約が切れたスマートフォンをWi-Fi環境下でネットにつなぐことで世の中の情報を細々と入手。図書館で水を飲んだり、暑さをしのいだりしたほか、手配師からは人手不足だからなのかよく福祉の仕事をしないかと声をかけられたという。このときのことを「孤独は感じなかったけど、ふと、いつになったらこの生活は終わるのだろうと絶望的な気持ちになることはあった」と振り返る一方で、支援団体との出合いを「(支援者たちは)適度な距離感を保ってくれて、ここなら弱みを見せてもいい、甘えてもいいんだと、人生で初めて思える場所を見つけることができました」と感謝する。

もともと英語も堪能で、いわゆるコミュニケーション能力も高い。心の準備さえできれば、ホームレス生活から脱することは難しくはなかった。

はたして彼は純粋な被害者と言えるのか

一方、振り込み詐欺に遭った人からすれば、知らなかったとはいえ、アツシさんは犯罪の片棒を担いだように見えるかもしれない。はたして彼は純粋な被害者と言えるのか――。

いくつかの気になることを聞いてみた。

――男たちに疑いは持たなかったのですか?

「男たちは頻繁に僕らの周囲に顔を出していたこともあって、まったく警戒していませんでした。正直、いつのまにか知らない人と結婚させられていたりして、ということくらいは頭をよぎりましたが、まさか口座を詐欺に利用されるとは思いませんでした」

――銀行によっては身分を証明する書類がなければ口座は開けません。男たちは住民票だけで口座が開けたのでしょうか。また、口座開設者を選ぶ権利はそもそも銀行側にあり、取引を断る理由を説明する義務もない、との指摘もあります。

「彼らが住民票だけでどうやって口座を開いたのかはわかりません。それから、銀行側に取引先を選ぶ権利があると言いますが、実際に現代社会で人並みに生活していこうと思ったら、口座がないことの不利益や不便さは計り知れません」

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