世界最速のディーゼルSUVに乗ってみた! BMW「アルピナ XD3 ビターボ」の実力
車両重量1950kgもある、しかも重心も高いはずのSUVが軽いとは、スペックだけを妄信すれば俄かには信じがたいのだが、実際彼女のドライブで筑波サーキットを走ると、明らかに軽やかなハンドリングを見せてくれる。ステアリング操作に対して嬉々としてターンインするさまは、たしかに軽快そのものである。
またシュミート選手は、スロットルレスポンスがディーゼルエンジン、しかも過給機付きとは到底思えないほどにシャープなことも、クルマを軽く感じさせる要因と強調する。たしかに、近年エキゾーストシステムのスペシャリストとして世界的ビッグネームとなりつつある「AKRAPOVIC(アクラポヴィッチ)」社と共同開発した専用ステンレス製マフラーから、直列6気筒らしく心地よいハミングが聴こえてくると、間髪入れず車体が軽々とスピードを乗せてゆくのが分かる。このレスポンシブな俊敏性もまた軽さを感じさせるのだ。
決定的なセッティングを見いだすことに成功
今回の試乗会に同行したアルピナ本社マーケティング担当のジョナサン・ガンザー氏曰く、アルピナは初めてSUVを開発するにあたり、当初はベース車両をより大型の「BMW X5」ないしは「X6」にすることも真剣に検討したという。
しかし、アルピナに相応しい敏捷なハンドリングと快適な乗り心地を得るには、「X3」のサイズとパッケージが最も好適と判断したとのこと。つまりシュミート選手の言う「軽さ」は、アルピナ首脳陣と開発チームの目論みが見事に功を奏した証とも言えるのである。
今回ガンザー氏から伺った話によると、実はBMW アルピナ XD3 ビターボの開発がスタートした際、このプロジェクトに難色を示した人物がいたという。誰あろう、1965年にアルピナを創業した張本人、世界中のアルピナ・ファンから創造主のごとく崇拝されるブルカルト・ボーフェンジーペン氏その人である。しかも実際には「難色を示した」などという生易しいものではなく「俺の目の黒いうちは、アルピナの名のもとでSUVなど創ることはまかりならん」とまで言及していたとのことなのだ。
ところが、既にアルピナ社の代表取締役社長として活躍している子息、アンドレアス・ボーフェンジーペン氏は、SUVの開発を「新時代を見据えたチャレンジ」として推進すると決意。不断の努力とともに開発を進めていったが、一方でようやく一定のレベルまで仕上がった試作車のテストドライブを行ったブルカルト氏によって、アウトバーンでのスタビリティに問題があることを指摘されてしまう。
かくして「レジェンド」から2度に亘る致命的なダメ出しを受けてしまったXD3 ビターボ試作車だが、その後もアンドレアス氏と開発チームはコツコツと研究と試作を続け、ついには「世界で一番厳しいテストドライバー」ブルカルト御大とて認めざるを得ない、決定的なセッティングを見いだすことに成功。それが市販型XD3 ビターボにおいて「アルピナ・マジック」が実現した、最大の要因とされている。
今や世界中の自動車メーカーから、まさしく百花繚乱のごとくSUVが生み出されている中、BMW アルピナ XD3 ビターボは、間違いなくユニークな存在と言えるだろう。アルピナ的な正攻法を徹底的に積み重ねた結果として誕生したこのクルマは、極上のSUVであるとともに、「正真正銘のBMW アルピナ」なのである。
(文:武田 公実 / 写真:内藤 敬仁)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら