――とはいえ、単なる男女入れ替えものではくくれない、一筋縄ではいかない物語に昇華しています。
『転校生』や「らんま1/2」は、男女入れ替えがテーマというよりも、ジェンダーそのものがテーマ。たとえば『転校生』だと、男の子になった女の子は、男らしくないと繰り返し言われるわけですし、それが面白さだったと思うんですけど、現代はそれをやってもなかなか響かないわけですよ。男の子に向かって、君は女の子っぽいよねと言うのも、女の子に向かって男の子っぽいよねと言っても、今は、それは単純な個性だし、魅力なんだと思うんです。
今回の作品でも「スカート注意」とか、そういったジェンダーを強調した描写はありますけど、それ自身がテーマではないですね。2人は女になったこと、男になったことを悩むわけではないですから。別の人になったことに悩むわけなんです。
1分たりとも退屈はさせない
――現代ならではの物語であると。
もっと言えば入れ替えもののゴールとなる「元の姿に戻ること」を目的にするつもりはなかった。もちろん男女入れ替えものから自然発生的に生じるドキドキ感やコミカルさは欲しかったけれども、ジェンダーを浮かび上がらせることが目的ではなく、元に戻るために行動にするわけでもない。
最初の予想とはまったく違う場所に連れていく作品にしなければいけないと思っていました。つまり他者への想像力、人を好きになること、そのもののメタファーのつもりで作りました。誰かを好きになるということは、「その人はどういう人なんだろう」と想像することですからね。
――新海作品の登場人物は、非常にまっすぐな印象を受けるのですが。
僕自身はピュアというわけではないですが、誰かのまっすぐな気持ちというものを目のあたりにすると、勇気づけられたり、反省したり、背中を押されたりと、いろんな効果があるじゃないですか。そういう効果を持った作品にしたいというのがあります。自分が10代や20代の頃に観たとしたら、「こういう風に生きたい」とか、「励まされた」といったような作品を作りたいと思っているんです。
――今回はチャレンジした作品となるとおっしゃっていましたが、どのようなチャレンジになったのでしょうか。
分かりにくいかもしれませんが、明快にチャレンジしたのは物語の部分で、107分という映画の時間をコントロールすること。その上映時間そのものが、監督の僕自身としてのテーマでした。それがどこまでできたかは分かりませんが、1分たりとも退屈はさせない、かつ予想もさせない、途中で興味を途切れさせない。107分という時間を、間違いなく面白いと思ってもらえるように、というのが僕の一番のテーマでした。
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