しかし僕らの作品は、一部の人にはある程度知られていて、その品質を保証しているかもしれませんが、一般的には名前も知らないという人の方が圧倒的に多い。そんな中でどうやれば観てもらえるのか。それは、僕の考えを超えたところにあるような気がしています。もちろんいいものを作ったという自信がある上での話ですが。
――しかし東宝としては勝算があって起用したのではないでしょうか。
そうですね。ただ、川村元気プロデューサーも最初は手探りだったと思います。この企画を始めた段階で、300館規模でやろうと決まっていたわけではなかったですから。前作の『言の葉の庭』は配給を東宝の映像事業部と組んだのですが、今回、川村さんともまずは東宝本体のラインナップに載せることを目標にしましょうと話し合っていた。だから最初からこの公開規模でやろうと言っていたわけではなかったんです。
詳しくはないが電車が走る風景は好き
――大きくなったのは結果論だったと。
そうですね。そして東宝の会議でこの脚本が通り、さらに絵コンテを見た上で館数を広げようかという話にもなった。もちろんそれには東宝さんなりの裏付けや自信があってのことでしょうから、それを信じようと思いました。
――脚本を作る際、川村さんたちともディスカッションを重ねたと聞きましたが。
川村さんをはじめ、いろいろな方と打ち合わせを重ねましたが、それでも、話そのものを変えてくれと言われたことは一度もありませんでした。2年前の7月に出した企画書のプロットと基本的には変わっていません。このセリフを変えた方がいいというようなことは一切なかった。むしろ監督がやりたいことのポテンシャルを引き出すためにどう見せたらいいか、ということに注力してくれたんだと思います。それをすごく感じました。
――新海作品はいつも電車のシーンが印象的ですが、今回も新宿や四ッ谷、千駄ヶ谷など、中央・総武線沿線の風景が非常に印象に残りました。鉄道はお好きなんですか。
よく聞かれますが、実はあまり詳しくはないんです。撮り鉄でも、乗り鉄でもないですし、時刻表の見方もよく知らない。ただ電車が走っている風景は好きです。もっと言えば、電車のある風景にキャラクターを立たせるのが好きなんですね。目的の違う人たちがひとつの場所に集まって、別の場所に移動する。そういう情景が好きなんです。
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