あの辺りを出したのも僕の生活圏だからという以上の理由はありません。自分が普段歩いているような、生活実感がある風景の中で物語を展開したかったんです。例えば外堀通りとか、近くの階段とか、坂道とか、そういった僕の好きな東京の風景を知ってもらいたかったという気持ちの方が大きいかもしれませんね。
わかりやすいエンタメ要素が必要だった
――新海作品では、人と人との距離を描き続けてきたわけですが、今回も根本のテーマは変わらないように思うのですが。
男と女でなくてもいいのですが、人と人とのコミュニケーションというものに特に興味を持っています。それは自分が思春期、20代だった頃にそれが悩みだったということが大きいです。
やはり同じ人間が作っているものですから、宮崎駿さんも細田守さんも、押井守さんも同じテーマを繰り返し描いてきているわけですし、そこに迷いはないです。確かに今回もテーマは引き継いでいるかもしれません。でも、絶対に違う手触りの作品にはしたいなと思っていました。それこそ僕の作品を知らない人が観た時に、むしろ知らないからこそ新鮮なものとして映るでしょうし、そういう作品を目指しました。
――新海さんの自己紹介的な作品であると。
そうですね。そういう気持ちはあります。
――小野小町の和歌「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを」をモチーフのひとつにしていると伺っています。
分かりやすくモチーフという言い方をしていますが、その他にも映画『転校生』や、マンガの「らんま1/2」など、影響を受けた作品はたくさんあります。
――平安時代の「とりかへばや物語」もモチーフのひとつですね。もともと男女取り換えの物語をやりたいと思っていたのでしょうか?
特にそれをやりたいと思っていたつもりではなかったです。でも、スタッフと話をしていたら、「新海さん『雲のむこう、約束の場所』(2004年公開)の頃に、『転校生』みたいなものをやりたいと言っていましたよ」と言われました。10年以上前の話なので、僕はまったく記憶になくて(笑)。だからやりたいという気持ちはあったのかもしれません。
今回、東宝さんとやることになった時、分かりやすいエンタメ要素というのが絶対に必要だと思っていました。その強力な要素のひとつとして、男女の入れ替わりがいいだろうと思ったんです。
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