スーパー編集者が『宇宙兄弟』の次に描く夢 新世代リーダー 佐渡島庸平 作家エージェント
佐渡島のチャレンジが成功するかどうか――そのカギを握るのは、デジタル化の行方だ。佐渡島は今後、音楽業界で起きたことが、出版界にも起きると読んでいる。
デジタル化以前、アーティストの収入の大半はCDの販売から生まれていた。そのため、歌手をCDデビューさせ、それを大量に売るノウハウを持つ音楽レーベルが、音楽業界の王様だった。ところが、デジタル化によりCDの販売は大きく落ち込み、レーベルの求心力は低下。代わって力を増したのが、CD販売、音楽配信、ライブなどをうまく組み合わせて、アーティストを売り出せる音楽事務所だ。
この話を出版界に当てはめれば、音楽レーベルが雑誌や出版社であり、音楽事務所が、作家エージェントとなる。
「音楽業界でレーベルの力が弱まったのと同じように、雑誌の力も弱まっていくと思う。レーベルの力が強いときは、ミュージシャンは、レーベルの人と話してCDデビューが早く決まったほうがよかった。でもレーベルの力が弱まっていくと、ライブやいろいろな生かし方を探してくれる人のほうがよくなる」
つまり、デジタル化は、作家エージェント業にとって強力な追い風となるわけだ。
デジタル化による3つの変化
デジタル化による電子書籍の普及は、ほかにも大きな変化をもたらすと佐渡島は予測している。
ひとつ目に、プロモーションのやり方が変わる。
「今のコンテンツ業界は、出版もテレビも映画も、出した瞬間の宣伝が勝負のすべてというビジネスのやり方。それが電子書籍になれば、いつプロモーションをしてもよくなる。たとえばフェイスブック上でレディー・ガガが<『宇宙兄弟』が好き>とツイートしたら、電子書籍上にある『宇宙兄弟』が、世界中でワーっと売れる可能性がありますよ」
2つ目に、電子書籍が進展し、物理的な制限がなくなれば、過去の蓄積を生かしやすくなる。今の出版界は、「ひとつの作品がダメだったら、すぐにまた次」というように、新しいものをひたすら作り続けていく業界構造。いわば、“フロー型”のビジネスだ。それが、電子化によって、“ストック型”のビジネスに変わっていく。
「たとえば『ドラゴン桜』は、みんなもうすでに旬を過ぎたコンテンツだと思っていますよね。でも僕は、超最強コンテンツだと思っています。電子書籍の市場がこれからどんどん広がっていったら、4月、夏休み、冬休み、受験期間と年4回も売れるようになるはずです」
3つ目に、電子化によって、海外展開が容易になる。
「ゲーム以外で、海外で本当に浸透している日本のコンテンツはない。ただし、売れていないのは、コンテンツの力が低いからではなく、日本の会社がすべて内弁慶になっているからというのが、僕の考えです。僕らのように、機動力があって人件費も安いベンチャーががむしゃらにやれば、海外でも日本のコンテンツはきっと売れるはず。それだけの可能性が日本のコンテンツにはある」
現在、多くの日本の出版社は、海外に作品を売る際、海外の出版社に翻訳もマーケティングも丸投げするというケースがほとんどだ。だが佐渡島は、ほかのベンチャー企業と協力しながら、翻訳にもより主体的にかかわっていく。
今のところ佐渡島は、マンガの電子書籍化が進むには、まだ4~5年かかるとみている。だからこそ、4~5年後にガラッとビジネスモデルが変わることを見据えて、全速力でトライ&エラーを繰り返し、最適解を見つけていくというのが、佐渡島の戦略である。