スーパー編集者が『宇宙兄弟』の次に描く夢 新世代リーダー 佐渡島庸平 作家エージェント

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天才に囲まれ、ヒット作を連発し、会社にも特に不満はない。社内や業界で、一目も二目も置かれる存在となった。さらに、マンガという枠を超え、小説のプロデュースまで手掛けるようになった。そんな順風満帆な佐渡島が、起業を決意するきっかけとなったのは、高校時代の友人の死だった。

その友人とは、シェアハウスを扱うベンチャー「シェノハウス」の創業者である各務泰紀。現在のシェアハウスブームの源流をつくった、草分け的存在だ。高校時代は特に仲が良かったわけではないが、彼が『宇宙兄弟』のファンと知り、新刊が出るたびプレゼントするうち、付き合いが深まっていった。

しかし彼は、20代後半でかかったがんが再発し、闘病生活の末、31歳で生涯を終えた。そんな友人が死ぬ間際まで訴えていたのは、「もっと仕事をしたい」という思いだった。

各務がどれだけ望んでも手に入れられない、仕事をするという機会をもらっているのだから、もっともっと仕事を楽しもう。そして、日々、すさまじい努力をしている天才マンガ家たちに対し、恥ずかしくない生き方をしたい――そんな思いが、佐渡島を起業へと駆り立てた。

10月1日、佐渡島は、講談社の同僚である三枝亮介とともに、コルクを創業した。

出版界を活気づける、ただひとつの近道

コルクを通じて佐渡島が実現したいこと。それは、デジタル時代に合った出版界の“かたち”を創ることだ。佐渡島は、紙を否定するわけでも、デジタルを盲目的に礼賛するわけでもない。目指すのは、新しい出版界のビジネスモデルを創り出すことだ。

日が差し込むコルクのオフィス。緑の多い、原宿にある

コルクのホームページで、佐渡島はこう述べている。

「出版・コンテンツ業界が活気を失っている理由は、明確です。クリエイターや作品の質が低下しているのではなく、ましてや読者の質が低下しているのでもなく、ただ旧来のビジネスモデルが時代に対応できなくなった結果なのです。デジタル化の積極的な展開は、一見遠回りのようでありながら、紙の本を含めた出版業界全体を活気づけるただひとつの近道だと、我々は考えています」

講談社にとどまっても、ゆくゆくは出版ビジネスを改革する仕事に携われたかもしれない。しかし、会社全体を改革できるポジションに就くには10年、20年とかかるだろう。しかも、たとえその地位を得ても、組織で動くには意思決定に時間がかかりすぎる。佐渡島が何よりも強く求めたものーーそれは、今思いついたことをすぐに実行できる、“スピード”だった。

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