スーパー編集者が『宇宙兄弟』の次に描く夢 新世代リーダー 佐渡島庸平 作家エージェント
起業するに当たり、佐渡島が選んだのは、作家エージェントという業種だ。この業態は日本にはほとんど存在しないだけに、イメージしづらい。
エージェント業を一言で表せば、「作家と作品の価値を最大化する仕事」といえる。ただ、より深くエージェント業について理解するには、エージェント業とは何で“ないか”、を説明したほうがわかりやすいかもしれない。
まず、出版社に勤務するサラリーマン編集者とは違う。
出版社の編集者が、最優先するのは、媒体や会社の利益であって、作家のそれではない。サラリーマンである以上、異動や担当作家の変更は日常茶飯事だ。もし佐渡島がずっと小山の担当をしたいと思い、小山もそう願っても、会社の都合で担当から外されるおそれがある。一方、エージェントであれば、意中の作家のために、永続的に働くことができる。しかも、本や雑誌といった媒体に縛られることなく、テレビ、映画など、あらゆるメディアに作家を売り込める。
次に、フリーの編集者ではない。
一般的にフリーの編集者とは、出版社からおカネをもらい、本やマンガや雑誌の編集を請け負う。だが、エージェントはあくまで“作家”から対価を得る。作家の代わりに、出版社やテレビ局などと交渉し、原稿料・印税・映像使用権料などの一定割合を、エージェントフィーとしてもらう形態だ。
さらに、大リーグにいるような、米国流のエージェントとも違う。
このタイプのエージェントは、弁護士出身で交渉のプロが多い。野球で言えば、選手という商品の値段を上げるため、各球団とドライに交渉していくような存在だ。しかし佐渡島の場合、主眼は交渉そのものではない。任務の中心は、作家とともに名作を創り上げ、それをいちばんいい形で読者に届けることだ。
野球に当てはめれば、契約面をつかさどるエージェントの仕事に加え、選手を育て励ますコーチの仕事、名選手を発掘するスカウトの仕事、そして、選手を的確に売り込む広報・マーケティングの仕事をドッキングしたようなものといえる。
ブーム本には興味がない
最後に、芸能事務所のマネジャーとも違う。
芸能事務所は、絶えず新人を発掘し、テレビ局などに売り込んでいく。タレントが入れ替わるサイクルが早く、一人ひとりの寿命は極めて短い。それに対し、佐渡島がやろうとしているのは、ダイヤの原石を見つけ、じっくり磨き上げ、“時代と国境を超えるような作品”をこの世に送り出すことだ。
「とにかく僕らにとって重要なのは、時代を読むことではなくて、時代を生き抜き、文化の違いを乗り越えられる作品を創ること。だからダイエットや英語などその時々のブーム本といったものは、僕らの会社が目指すものから最も離れたところにあるんです。僕らは、10年後でも20年後でも、テーマになりうるものだけを追っていく」
だからこそ佐渡島は、担当作家をいたずらに増やす気は毛頭ない。自らがプロデュースする作家は、生涯で多くても6人ぐらいと考えている。
「安野さんと小山さんと三田さんを担当しているので、空いている席はあと3つです。あと40年働けるとして、10年かけて1人ずつ新人を見つけ、その新人が誰にもマネできないものを創れるよう10年かけて鍛えるつもりです」
その10年に1人の天才を見つけるため、年間300~400人の新人と出会うことが佐渡島の目標だ。早速、今年初めから第1回コルク新人賞の募集をスタート。受賞者には、3年間のサポートを保証し、世界で愛される作品を創るため、全面サポートをしていくつもりだ。