「シン・ゴジラ」が人々を惹きつける真の理由 成功の要因はエヴァとのシンクロだけでない

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公開前のマスコミ向け試写もほとんど行われず、インタビュー取材等のためにどうしても試写を観る必要があった一部マスコミに対しても、「ゴジラの設定」「ゴジラの上陸地・通過地点」「対ゴジラ戦における作戦の名称・内容」「劇中使用音楽」「野村萬斎の出演情報」などは絶対に漏らさないよう、秘密保持の要請を徹底していたという。

そんな情報のない状況が飢餓感をあおり、多くのファンが劇場に駆けつけた。公開後、実際に映像を観た観客が、熱量の高い口コミを繰り広げ、それを見たり聞いたりした一般層にまで広がったことが、ヒットにつながっている理由として挙げられる。

「ゴジラ以外はリアル」へのこだわり

各省庁の防災担当者へのヒアリングや大臣経験者の取材など、念入りなリサーチを行い、リアリティーを追求している  ©2016 TOHO CO.,LTD.

庵野が「ゴジラ」を任されたとき、方向性として選択したのは、「3.11(東日本大震災)を経験した現在の日本に、もしもゴジラが上陸したら」というテーマのポリティカル(政治)ドラマを描くことだったという。

庵野が「怪獣映画の面白いところは、現代の社会に異物が現れるところにある」と語る通り、「怪獣」という虚構を描くため、ゴジラ以外の要素をできる限り現実に即した描写にしなければならない。

そのリアリティーを追求するために、スタッフは徹底的なリサーチを実施した。本作のパンフレットによれば、スタッフは3.11時の膨大な記録資料を読み込み、さらに各省庁の災害担当にもヒアリングを行って危機状況下にどのような対応を行うか調べたという。また首相官邸を見学し、災害時の危機管理過程について綿密なリサーチを行ったほか、防衛相を歴任した小池百合子・現東京都知事や、3.11の時に内閣官房長官だった枝野幸男民進党幹事長などの政治家にも取材をしている。

さらに自衛隊の協力を仰ぎ、ゴジラを迎え撃つとしたらどのような作戦をとるか、そして実際に自衛隊員たちが使う言葉に間違いがないかなども調査している。これらの綿密なリサーチの結果、本職の人間が「本当にこんな感じだ」と舌を巻くようなリアルさが全編を貫いた。

しかし、本作に出演する女優の石原さとみが「いただいた台本は、文字がものすごく多くて分厚いものだった」と証言する通り、庵野が仕上げた脚本は異常なまでに情報量が多く、そのまま映画化すれば3時間は優に超えるものだったという。しかし東宝からは「2時間におさめてほしい」というリクエストがあった。

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