「シン・ゴジラ」が人々を惹きつける真の理由 成功の要因はエヴァとのシンクロだけでない
そこで庵野は、準備段階で「ラジオドラマ版シン・ゴジラ」を制作することにした。「基本的に政治家は感情を表に出さずに早口でしゃべるものなので、その手法で早口でセリフを読めば2時間以内におさめられるのではないか」という考えのもとに、集まった声優たちに早口でセリフを読むことを要求。すると、収録時間は90分でおさまり、庵野は「これなら情報量はそのままに時間も短縮できる」と確信を持ったという。上映時間が短くなれば1日の上映回数も増やすことが可能で、それだけ観客動員も増やすことができる。
アニメ的手法で高レベルなCG映画に
本作は、従来の着ぐるみではなく、「日本版・ゴジラ」としては初のフルCGゴジラとなっている。しかし公開日を動かせないことと、VFXのシーンが膨大なこともあって、制作スケジュールにあまり余裕がなかったという。
そこで本作では、「プリヴィズ」と呼ばれる、本編制作前に仮で制作される検討用の仮映像を全編にわたって準備。先述した「ラジオドラマ版」の音声をベースに、絵コンテやロケハン画像、CGのモデリング映像などをはめ込み、映画の全体像を前もってしっかりとデザインすることにした。そして実際の制作時には、そのプリヴィズ映像を見ながら検討、撮影期間中はどのような映像が必要になるのかがその都度、直感的に理解することができた。
その後、実際に俳優を使って撮影した映像を一つずつプリヴィズ映像と置き換え、それをもとにCG班がすぐに作業に取りかかっていった。結果、撮影期間は短くても、本編をじっくり練り上げることができた。ある種、アニメに近い制作手法が、スクラップ&ビルドを繰り返しながら少しずつ組み立てていく庵野のイメージを具現化するのに大いに役立ったようだ。
現在発売中の雑誌「CGWORLD」9月号(ボーンデジタル刊)では、同作のワークフローが掲載されているが、それによると、東宝に置いたサーバーを中心に、編集スタジオがあるVFX制作会社の白組、庵野のスタジオであるカラー社とを、ネットワークでつなげたことで、編集状況がリアルタイムで反映されるようになった。どのスタジオからでも確認が可能となり、より密な制作体制が実現した。
VFXスーパバイザーと編集を務めた佐藤敦紀が考案したこのスタイルは、編集や映像のレイアウトなどにこだわりを見せる庵野のやり方にピッタリだったようで、庵野が「日本映画のCGの見方が変わるのではないかというくらいにすばらしい出来だった。日本映画の何かが変わればいいなと思っています」と自負するようなハイクオリティーの映像に仕上がった。
本作のクランクイン前、「何よりも面白い!面白い日本映画を目指してやっていきたいと思います!」と力強くスタッフを鼓舞していた庵野。本作のクオリティーの高さを支えていたのは、そんなクリエーターたちの熱い思いと、それを支える工夫だった。それは潤沢な予算で制作されたハリウッド版『ゴジラ』に対して、日本の『ゴジラ』はどうあるべきなのか、という問いかけに対する、庵野たち日本のスタッフからの回答だったともいえるだろう。
(文中敬称略)
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