警察は「前兆」のある事件をなぜ防げないのか

障害者大量殺人とアイドル刺傷事件の共通点

② 神奈川県警

報道では「犯行予告の内容から、精神保健福祉法23条に基づき市に連絡、その後市は措置入院を決定した」とありますが、なぜ具体的な犯行内容の予告があるにもかかわらず、すぐに逮捕しなかったのでしょうか。私は、内容についてあまり考えず事務的に「市にまかせよう」と横流しにしてしまったのではないかと捉えています。

植松容疑者は昨年の6月に傷害事件を起こし書類送検されている人物でもあり、過去のケースを見ても逮捕されてもおかしくはありません。危機意識が足りないということはもちろんですが、今年5月には伊勢志摩サミットがあり、そちらに警察側の意識がいっていた背景もあるでしょう。「警察は健全に機能していなかった」と言っても過言ではありません。

多くの残忍な事件にある「前兆」

今回の事件はもちろん植松容疑者が犯人であり、罰せられるのも彼であることは間違ありませんが、多くの残忍な事件では必ずと言っていいほど「前兆」が現れています。埼玉県警に28年間勤務した私がまとめた拙書『警察は本当に「動いてくれない」のか?』(幻冬舎)でも触れていますが、近年、この前兆を察知しているにもかかわらず、警察が事件を食い止められないケースが後を絶ちません。

直近で思い出されるのは5月下旬、東京都小金井市のイベント会場で芸能活動をしていた冨田真由さん(20)が、ファンだった27歳の岩崎友宏容疑者に刺された事件。冨田さんはもともと事前に警視庁武蔵野署に相談をしており、被害に遭う直前にも110番に通報していましたが、報道によれば、警察は携帯電話の位置情報を確認する操作をせずに、警察官を被害者の自宅へ急行させていたといいます。警視庁は検証の結果として「警察の対応は不十分だった」と公表しました。

警察側は何かあるたびに「○○○対策課」として新しい部署を増やします。例えば、ストーカー事件が起きて、ストーカー規制法・ストーカー対策課の設置、ネット犯罪の多発により、サイバー対策課が設置されるなど。ところが実際は、既存の法律での検挙数が圧倒的に多く、再犯も起こっているのが現状です。

私は、「その場しのぎの改革」と「警察官の意識」に問題があると考えます。

何かが起こると、取ってつけたような法案をつくる。でも、根本が変わらなければ意味がないのです。ただ法律が増えるばかりで、事件はいっこうに減りません。人によって能力気質は皆違います。幹部の好き嫌いで人事を行っていては、何ら変わることはありません。事件を解決、減少させるには「人材の適材適所」と「階級是正」がマストです。

また、警察官の「意識改革」も早急に必要です。人材不足に悩まされている現状は事実ですが、ただ数を増やすだけでは「焼け石に水」。表面上の数が問題なのでなく、「質」の問題です。いわゆる警察官の増員で楽をするという考えでは、まったく意味がなく、今必要なのは、増員よりも「やる気喪失」の原因を考えたうえでの施策といえるでしょう。

警察官の職場環境は間違いなく悪化しています。現場の声は、「次の仕事があれば辞めたい」と言っているのが事実です。ストレスから不祥事を起こす、自殺をする警察官が明らかに多くなっています。生活のため、家族のために嫌々やっていても国民のためにはなりません。

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