今や国内に200台はあるといわれるダヴィンチだが、東京医大では2005年に導入し、主に保険適用対象である前立腺がんや腎臓がんの手術などに使ってきた。国内で最初にダヴィンチで前立腺手術を行ったのは、この東京医大病院である。
開腹手術、腹腔鏡手術、そして、ダヴィンチ
冒頭で私を褒めてくれたのは、大堀理先生。泌尿器科学分野教授で、前立腺センター長、ロボット手術支援センター長でもある。これまでにダヴィンチを使っての手術を500例ほど積み重ねてきた。タレントの稲川淳二さんの手術を担当したのも、大堀先生だ。
現在、大堀先生の専門の前立腺のがんの手術には、主に3つの方法がある。腹にメスを入れての開腹手術、内視鏡と長い鉗子を使っての腹腔鏡手術、そして、ダヴィンチだ。
「私はお腹を開ける手術も、助手と和気藹々(あいあい)と進められるので好きでした」
お腹を開けて、和気藹々……。なかなか想像できないが、いやしかし、先生たちにとって患者の腹を開けるのは仕事なのだから、険悪なムードの中で進めるよりは、良いチームワークで手術を進めていただいたほうが患者としてはありがたい。
「その点、ダヴィンチは一人でコンソールに向き合ってビューアをのぞき込むことになるので、孤独です。それでも、手術を受ける方がもしも選べる環境にあるなら、ダヴィンチを選ぶのが間違いないと思います」
その理由は、まず、前立腺がんの開腹手術は、大出血を伴う手術だからだ。それにそなえて、事前に自己血を、400ccから1200ccほど採取しておくものだという。出血が多くなるのは「前立腺と尿道の上に、静脈の束があるからです」。腹腔鏡手術でも、この静脈からの大出血が起こることがあるという。
ところがダヴィンチを使うと「拡大も簡単ですから、その血管の束がよく見えるのです。それに、腹腔鏡手術の場合は、とても長い鉗子を使います。やたらに長いはしで小さな食べ物をつまもうとするようなものです」
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