パナマ文書がもみ消されずに公開された意味 機密文書を安全に公表するための有効モデル

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それほど大きなインパクトをもたらしたパナマ文書の暴露だが、この件で私がもうひとつ注目したのは、文書の公開方法だった。

機密文書を安全に公表するには

パナマ文書が公表されたのとちょうど同じ頃、私はたまたま『シチズンフォー スノーデンの暴露』(第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞受賞)という映画を観た。

エドワード・スノーデンは、アメリカのCIAとNSA(国家安全保障局)の元職員で、2013年6月、NSAが大手IT企業の協力を得て、テロや犯罪への関与とは無関係にアメリカの一般国民や各国指導者の電話での会話やメールの内容など膨大な通信データを秘密裏に収集している事実を、機密文書の暴露を通じて内部告発し、世界に衝撃を与えた人物である。

この文書の暴露は主に、元々NSAの活動に対して批判的だった記者グレン・グリーンウォルドが当時在籍していたイギリスの新聞『ガーディアン』紙を通じて行われたのだが、映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』では、2人が香港のホテルで初めて会ったところから、衝撃的な機密文書の公開が行われて世界に衝撃が走ったあと、国家権力を敵に回す緊迫した状況の中で、スノーデンが、香港の人権派弁護士やウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジの助けを借りてロシアに亡命するまでの過程がドキュメンタリーで記録されている。

機密文書の公開後、アメリカ政府は当然、スノーデンをスパイ容疑で告訴したが、文書の暴露が続く中、当局の圧力はひとりスノーデンのみならず、『ガーディアン』紙はもちろんのこと、記者のグリーンウォルドにまで及んだ。映画には、グリーンウォルドのパートナーが一時空港で拘束される様子も記録されている。

内部告発者やそれを公表した記者に対する当局や世間からの圧力・個人攻撃は、日本でも世界でも昔から繰り返されてきたことである(機密情報を公開するウェブサイト・ウィキリークスのジュリアン・アサンジも性的暴行容疑をかけられエクアドル大使館での幽閉状態が続いている)。それはとても一個人で受け止めきれるものではない。

今回のパナマ文書に関しては、情報元は内部告発者ではなく、ハッキングによるものだと言われているが、もしもこの情報が最初にもたらされていた『南ドイツ新聞』が単体で公表していたら、これまで同様の新聞社への圧力や記者への個人攻撃で、文書の公開が尻切れとんぼに終わっていた可能性は十分にある。

しかしながら今回はまず、ワシントンDCにある「国際調査報道ジャーナリスト連合」所属の、80カ国107の報道機関約400名の記者が協力して文書を精査した上で、情報が複数のメディアで、安全に、公開された。

漏洩された機密文書の公表を、当局や世間からの圧力・個人攻撃を避けて、いかにして安全に行うか。

その有効なモデルのひとつを、今回のパナマ文書公開は示したのである。

(文:井上 一馬)

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