その陽子線治療システムで米国のバリアン、ベルギーのIBAとシェアを争う会社が日本にある。Inspire the Nextの日立製作所だ。
日立の事業領域は広いので、その社名に抱くイメージはそれぞれだろうが、医療分野にも強い。2014年にヘルスケア社を設立してヘルスケア事業を強化し、翌年には粒子線治療施設を6件も受注している。2016年には日立メディコと日立アロカメディカルを統合し、ますます日立としての医療への取り組みは強化されている。
その日立が、北海道大学と共同で“4次元動体追跡型”という画期的なシステムを開発した。
どうやって腫瘍だけを攻撃するのか
どうやって腫瘍だけを追跡し、そこだけを狙い撃っているのか。
それを知るため、同社のヘルスケアビジネスユニット放射線治療システム事業部の中村文人さんを訪ねた。本拠地は上野にあった。ビルの裏側はハングル文字が飛び交う焼肉屋通り。なんとも庶民的な場所に日本が誇る医療技術の最先端があったのだ。
中村さんの答えはシンプルだった。
「腫瘍の近くにX線を透さないマーカーを入れ、そのマーカーをリアルタイムにモニタリングし、コンピュータが所定の位置に来たときだけ照射するようにしています」
なるほど。だから、動いても大丈夫なのだ。
最大の謎が解けたところで、システム全体の100分の1の模型を見せてもらう。模型でも迫力は充分に伝わってくる大きさだ。とにかく設備が大がかりなのである。
陽子線治療システムには、患者が横たわって照射を受ける「照射室」だけでなく、物理学の研究所にあるような陽子を加速する装置と、加速の途中で発生する中性子が周辺に飛び散らないよう遮蔽する特殊な建屋が必要だ。
人口の多い東京に陽子線治療システムがないのは「やはり土地が高いので」とのこと。お値段もなかなか高く、照射室が1室の場合は40億円から50億円が相場のようである。このような粒子線治療システムは陽子線と重粒子を合わせ、国内14カ所で稼働している。
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