銅市況のカギ握る中国 非鉄金属は、世界景気の「体温計」

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 では、米国で銅地金消費のピークだった2000年ごろの非鉄金属価格はどうだったのか。まず、銅はトン当たり2000ドルにも満たない水準であった。亜鉛は1000ドル以下、ニッケルは8000ドル以下、鉛に至っては500ドル程度で取引されていた。

ITバブル崩壊で、非鉄金属の価格はさらに2003年まで低迷するのだが、同年年後半から価格は急騰する。2006年5月に、銅は当時の高値である8400ドルまで上昇した。そして2008年秋のリーマンショックで3000ドルを割れる水準まで暴落した後、景気回復過程で価格は再び高騰を始める。そしてついに、銅価格はトン当たり1万ドルを超える水準まで駆け上がることになる。その背景は、「中国を始めとした新興国の台頭にほかならない」とのことだったが、果たしてどんなことが起きていたのだろうか?

需要が予想以上に大きかった中国

LME指定取引所在庫の長期的趨勢と価格を振り返ってみよう。ここでも例として、銅を見る。LME銅在庫は、2002年5月に98万トンまで増加しておりこれが直近のピーク。その後、2005年までは一貫して引き出され、2005年7月には2万5000トンまで減少している。引き出された銅地金の量は、当時の日本の銅地金需要の約1年分に相当するものだ。

このころ、中国は指導者が変わったこともあり、インフラ整備を軸とした近代化を強力に推進していた。一方の米国では、ITバブルの傷が癒え、景気は回復軌道に乗り、住宅投資は安定的に推移していたものの、銅需要は伸びていない。米国での銅需要は伸びると思っていたが、期待外れでおそらく在庫は積みあがっていったと思われる。しかし、ことのほか中国向け販売が好調で、米国向けだったはずの地金も売れてしまい、とうとうLMEから現物を手当てすることとなった。この予想以上の中国の需要により需給が歪んだことで取引価格帯も変わってしまったのが、2003年から2004年の起きたことだった。

その後も、リーマンショックが発生するまでの間、一時的な重要な落ち込みにより6000ドル/トンを割ることもあったが、おおむね6000~8000ドルの範囲で取引されていた。そしてリーマンショック後の景気回復過程では、中国政府による4兆元の景気刺激策もあり、2008年は軒並みマイナス成長だった先進国とは対照的に、中国はプラス成長となった。銅消費量は2008年から09年で100万トン以上の純増を記録している。

しかし、LME在庫は2009年2月の54万トンから2012年の21万トンと、その減少は前回よりも小幅なものとなった。中国が備蓄目的で銅を購入したと伝えられたのもちょうどこのころで、価格帯は4000ドル台であったが在庫の劇的減少にはつながらなかった。それにもかかわらず、2011年にトン当たり1万ドルを超える水準まで急騰したのは、米国のFRBの金融緩和政策で「過度に」ドル安期待が膨らんだ影響である。中国の銅地金需要は昨年800万トンを超えたと見られる。需要と価格が単なる1次関数で収まる関係であるなら、銅価格は昨年中に1万ドルを超えていてもおかしくない状況ではあった。しかし、昨年の取引レンジは7200~8700ドルと、ここ7年で最もせまい値幅となっている。「サプライズ」は発生せず、価格は予定調和的に淡々と狭い価格に収斂された、と考えている。

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