草食系マッキンゼーが営む、面白い不動産屋 新世代リーダー 林 厚見 不動産プロデューサー
1日に20通、自分あてにメールして「妄想する」
――ブログにも「1人シンポジウム」と書いてありましが、創造的な発想をするとき、よく脳内ブレストみたいなことをするんですか。
僕は日々、人と話しているときでも、電車に乗っているときでも、走りながらでも、ずっとひたすら妄想している。そうやって考えたことを、一日中、自分あてにメールしているんです。そして一日に何度も喫茶店に入ってメモに落とす。そういう自分あてのメールは1日20通くらいになります。
そうする中で、アイディアと出会いがうまくつながると、新しいプロジェクトが生まれます。最近も、新しいことをいくつか手がけています。
一つは東京の目黒駅近くにあるスペース「印刷工場」。もともと工場だった古い250坪の空間をリノベーションして、個人や小規模事業者向けのオフィスにしました。このスペースの半分は、英国を起点にはじまり、現在は世界で40か所にあるコワーキング・スペース「the Hub」の日本第1号拠点、「Hub Tokyo」が入居しています。
もう一つは、リフォーム市場にテクノロジーとクリエイティブを持ち込んでいく「toolbox」という事業です。これから空間づくりのプラットフォームとして進化させていきます。そもそもの僕らの目的は、楽しくこだわりある空間を世の中に増やすということです。そのためにはまず、個性ある空間を貸したり売ったりする場所、つまり面白い不動産屋がないといけないということで、東京R不動産でそれをやったわけです。そこで次は、人間的で楽しい空間をつくるための仕組み、インフラを構築することが、次なるテーマです。これは走り出しは快調です。
クリエイティブな建物を効率的に作るために必要なこと
いま日本では、効率優先で味気ない建物がほとんどです。人はフェイクだらけの家に住んでいたら、心が豊かにならないと思うんです。そういう意味では、家づくりの選択肢や、手立てがまだ未熟であるといえる。
安くて合理的な家とともに、一方でちゃんと愛着を持てるものや、美しく創造的なものも普通に選べる「ダブルスタンダード」が当たり前にならないと、文化的に危機的状況を迎えてしまう。でもクリエイティブなものを、同時に合理的・効率的に提供する仕組みをつくる人は、往々にして少ないものです。合理的な人は、クリエイティブなことに興味が薄く、感性豊かな人は仕組みをつくらない。そこにあるコンフリクトを埋めるのが、僕らの役割だと思っています。
人間の感覚に豊かさをもたらすということなしに進化発展をしても、人はハッピーにならない。でも楽しくて、心が満たされていれば、人は別に経済的成功やステータスに過剰にこだわらなくなる。やりたいことをやって、好きな仲間と仕事をしていれば、日常が幸せでわくわくできるのであって、結果いろんなことに対して寛容になる。そのほうが社会もよくなる。
短期的な合理性の追求ばかりでは、どんなに経済が伸びても「不健全な欲」のほうに向かってしまうところがありますね。面白いことやステキなことと、経済的なたくましさは両方必要です。我々も好きなことをやっているようでいて、一方では数値的分析や、生産性や満足度を上げる努力は当然しています。
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