草食系マッキンゼーが営む、面白い不動産屋 新世代リーダー 林 厚見 不動産プロデューサー

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――ステキな仕事こそ、戦略も必要なのですね。

世の中にまだない仕事の方が、すでに存在する仕事より往々にして難しい。だから自分たちが楽しんでいくためにも、そういう危機感を前提にしています。社会的に意義あることでも、現実的なタフさがないとうまくいかないですよね。本当に「実行力のあるプロである」必要がある。

いまの20代の人は、あまり修行を積まないで、早く好きな仕事、“自分らしい仕事”をしたほうがいいとか、「どこかにある本当の私」を探すような風潮があります。でも僕は本当に20代のうちに修行していてよかったなあと思います。

極端なアートの世界も少しは垣間見たし、極端なビジネスの世界も垣間見た。両方の好奇心が、自分にとって大きな財産になっています。多少はそれによって得た武器もある。やりたいことを発想するためにも、実行するためにも、修行は必要でした。

資本主義のルールを勉強して、ロマンを実現する

感性が鋭く素敵な未来を抱く人たちのほうが、まっとうな社会のあり方をちゃんと考えている健全な人が多いと思っています。そういう人こそ、ある意味世知辛い現実の中で目的を達成するために、資本主義ルールでのプレイがわかっている必要はある。ロマンとソロバンをともに持たないと、本当におもしろいことは起こらないと思います。

たとえば由緒ある古い建物を保存したいという場面において、思いだけで「こんなに素晴らしい建物を壊すなんて、間違ってます!」と反対運動をしても限界がある。でも、世の中がわかっていれば、もっと違う手段をとれる。

「この建物を壊すのは残念ですが、経済的な懸念もよくわかります。しかし、この建物を残したまま不動産の価値を上げていく方法があります。ホテルとして再生してレジデンスを付加すれば、建物は残しつつ、ちゃんと儲かります。この会社と組ましょう、金融スキームはこうしましょう」というようにアプローチすれば、ちゃんとその建物は残るんですよね。

――まさに、それがプロデューサーの発想なのですね。

一方で、最初からお金だけを考えるファンドの理屈では、古い建物への愛着など最初から関係ないわけで、それだけでは世の中はどんどんつまらなくなり、気づくと人が皆が不幸になっていく。

伊豆諸島の新島で、使われていなかった民宿を借りてカフェと宿をつくり運営していますが、それも地域経済のあり方や都市と島の共存関係をイメージすることを通して、長期的に本当にステキな世界に少しでも近づきたいという思いがベースにあります。大小問わず、おもしろくて社会にも支持されるビジネスをやっていきたいと思います。

僕にとってハッピーとは、やりたいことをやれる自由と、そして好奇心を持っていられることなんですよ。いつもわくわくできるということが、自分にとっては何よりも幸せ。

強いていうならば、うまい寿司を食べられるための収入だけは確保するけれど、それ以上の立場やおカネは、好奇心や自由より重要にはなりえない。でもそんな状況を維持するためにも、ある程度「力」を持つことも必要です。こんなことに、遅まきながら気づいたりもしています。もう少し大胆に攻めることも必要かな、と思っているところです。

(撮影:尾形 文繁)

長山 清子 ライター
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