「ほぼ日」はブータンを目指す 楠木建が糸井重里に聞く(下)

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篠田:ほぼ日では、今ここにすてきなものがある、あるいはすてきなアイデアがあるという段階で、いろいろ考えます。文章や写真で記事として紹介するのがよいか、実際に手に取れるようにイベントを開くのがよいか、いっそ自分たちで商品化したほうがよいのかと。初めから「何か商品にするものない?」という発想でのコンテンツ作りはしません。

楠木:そのあたりが、まず売ることを優先し、そのために情報を載せようとするウェブサイトと違うところですね。ところでほぼ日といえば、誰もが連想するのが「ほぼ日手帳」。これも根強い人気商品ですね。僕も最近使い始めましたが。

篠田:02年版から始まり、1日1ページ型の新ジャンルを開拓しました。12年版は46万冊出ています。

楠木:なぜ手帳を作ろうと?

糸井:これも「自分が欲しい」が動機ですね。手帳に満足した覚えがなかったですから。

楠木:糸井さんや社員の、どのような「欲しい」が反映されているのですか?

糸井:たとえば「1日1ページの記入スペース」や「180度パタンと開けられる造本」などがあります。

集客して「刈り取る」ではなく「楽しませる」という発想

糸井重里(いとい・しげさと)
東京糸井重里事務所社長
1948年生まれ。 コピーライター、エッセイスト、タレントなどとしてマルチな才能を発揮してきた。98年ウェブメディアの、「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設。東京糸井重里事務所は、売上高28億円、純利益3億円の優良企業。従業員は49人。

楠木:手帳に関しては、読者の注文が最も多いんじゃないですか。

篠田:もっと軽い手帳が欲しいという声が多くて、2年前から週間タイプの手帳を作っています。変更しているところは毎年あります。そういう意味で毎年、何らかの変更が加えられる「進化する手帳」です。でも、ここでもお客様の要望はいったんよく考えますね。

糸井:使っている人の要望をすてきな形にして返せたときが、商品としての答えになっているときですね。

楠木:このあたりの発想が、ほかのeコマース企業とは、まるで違う点ですね。これだけの読者を集め、仮想上の「街のにぎわい」を実現したら、お客さんのニーズをできるだけくみ取って、それを商品化して、高速回転できると思うのが普通です。

篠田:多くの企業は、お客様を自社のホームページに数多く集めた時点で、「刈り取る」という表現を使います。しかしそれは、ほぼ日が考えるお客様とわれわれとの関係とは違います。せっかく集まってくださったのだから、もっと楽しんでいただけたら、というのが私たちの考え方です。

次ページ「商品開発のプロじゃなくていい」糸井のモノ作りへの姿勢
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