化学はニッポンを見放した

主要メーカーが国内生産を次々と撤退、縮小

製品は違うが、宇部興産も事情は似ている。まずナイロンは、たとえば洗剤やシャンプー、リンスの詰め替えパック、密封度の高い加工食品のパッケージなどに使われる。宇部興産はその原料となるカプロラクタムを日本2拠点のほかスペイン、タイで生産している。

世界4拠点でもっともコスト高なのが堺。それを招いた要因が電気代や人件費の高さといった日本が抱える弱点である。もともとカプロラクタムは市況性の強い製品で、景気の変動などに応じて、儲けが変動しやすい。今までは市況が悪いときに赤字に陥っても好況になれば取り返せていた。

ところが、カプロラクタムにも海外勢の波が襲いかかっている。複数の中国メーカーが仕掛けた大増産が、12年にピークを迎え供給過剰に陥ってしまったのである。景気循環で浮上する見込みが薄まった構造的な変化に対応するために、堺工場が痛みを被ることになったのだ。

三菱ケミカルは先んじて日本“脱出”

三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長(撮影:山内 信也)

今回の住友化学、宇部興産に先んじて、すでに国内化学で最大手の三菱ケミカルホールディングスは、不採算品を中心に国内からの“脱出”を進めている。代表的なのはPETボトルなどの原料になる「テレフタル酸(PTA)」と呼ばれる化学品。2010年に国内生産をやめ、インド、中国、インドネシア、韓国といった海外生産のみに移行している。三菱ケミカルの社長を務めるのは、石油化学工業協会の小林喜光会長。小林氏は、安倍政権の経済政策の司令塔として復活した、経済財政諮問会議の民間議員でもある。

総合化学メーカーで国内8位級の昭和電工も、国内事業所の再編を検討しており、市川秀夫社長は、「国内事業は聖域を設けず、既存の立地に縛られずにベストロケーションを追求する」と言及している(関連記事はこちら)。

歴史的な円高こそ足元で是正されたものの、厳しい労働規制や高い法人税率、電力不足など、日本の製造業は、諸外国と比べて“六重苦”ともいわれる不利な環境にあると指摘されてきた。旧民主党政権はこの問題に対処できず、政権交代した自民党の安倍政権がこれに対する明確な手立てを講じて実効性を伴うにも時間がかかる。その間にも、熾烈な国際競争にさらされる産業は、どんどん日本を出て行く。少なくとも化学メーカーは日本を見放した。

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