エチオピアは歴史的に中長距離の世界で上位を席巻してきたことでよく知られた国だ。エチオピアのランナーたちのすらっとした体型に長い手足、腰を高く、胸を張り、ストライドが大きいフォーム。レースの終盤になっても疲れを見せるどころか、静かに笑みをたたえたような走りでゴールするその姿は優美である。
エチオピア・アスリートたちの記録は実に華やかだ。日本でも誰もが知る“裸足のアベベ(本名はアベベ・ビキラ)”は1960年、ローマ五輪では裸足でマラソンを走り、サブサハラ(サハラ以南)のアフリカ人として初めてオリンピックで金メダルを獲得した人物だ。そして2008年のベルリン・マラソンで人類初の2時間3分台を記録した“皇帝”ハイレ・ゲブレシラシエ、5000メートルと1万メートルの世界記録保持者ケネニサ・ベケレ、ランナーとしての記録だけでなく美貌でも知られるディババ三姉妹。エチオピア勢は昨年8月の世界陸上北京大会女子5000メートルでも金メダルはアルマズ・アヤナ、銅がゲンゼベ・ディババと表彰台を独占した。
エチオピア・オリンピック委員会(EOC)のシニア・コミュニケーション・エクスパートのダニエル・アベベによると、同国は初出場した1956年のメルボルン五輪以来、夏季五輪で金メダル21個、銀7個、銅17個の合計45メダルを獲得。全て中長距離である。「今年のリオ五輪では金銀銅それぞれ4つずつ、合計12個のメダルを取ることを目指している」とアベベは言う。
ハイランドの地形が体を作る
エチオピアは山岳の国だ。国土の4分の1が海抜2000メートル以上で、北部には“アフリカの屋根”と呼ばれる4500メートル級の山々が連なるシミエンの山々を抱える。これらの地域の空気は極めて薄く、昼夜の温度差も非常に激しい。
この厳しい気候、地形、環境の中で、エチオピア人は幼いころから裸足で学校に何時間もかけて通ったり、親を手伝うために何時間も歩いて水をくみに行ったり、家畜であるヤギや羊たちを連れ、草を求めて歩き回る。
現在は高地トレーニングが持久力に与える影響を研究、以前アディス・アババ大学で教鞭を取ったことがあるゼル・ベケレは、「ほとんどのエチオピアのランナーは貧しい農村出身だ。何世紀にも渡って作られた、高地に強く、持久力が高い遺伝子がある」と話す。「そして彼らは実にストイックに日夜訓練をする。持って生まれた遺伝子と、厳しい訓練が組み合わさり、ランナーの能力は最大限に発揮される」。
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