「街全体が家族みたいなもんどす」
舞妓さんも経験4~5年目になると、同じ置屋に所属する後輩の指導責任を担うようになります。たとえば踊りの舞台などでは、複数人の舞妓さんたちのチームリーダーを務めるようになるのです。これまでは指導される立場、あるいはせいぜい1人か2人の面倒を見るだけだったけれど、自分がチームとしてのパフォーマンスに責任を持つ立場になると、とても大変やなぁと思うと、ある舞妓さんが話してくれました。
そこで、「大変って、どんな気持ち?」と尋ねると、
「お座敷で能力が足りずに失敗した後輩舞妓の気持ちも痛いほどわかるし、一方でそれを指導しようというお姉さんの気持ちもわかる。だから何とかわかりやすく後輩に教えてあげたいと思うけれど、自分がまだまだ力不足で……」
と言うのです。そして語ってくれたのが、「街全体が家族みたいなもんどす」という言葉でした。この言葉を話すとき、舞妓さんの瞳は心なしか潤み、口元はきゅっと引き締まっていました。自分が、花街という大きな組織の一員としてなすべきことが少し見えてきた、そんな様子でした。
経験4~5年目の舞妓さんは立場上、後輩と先輩の両方の気持ちがわかるのは当たり前です。その気持ちを踏まえて、「よりチームや組織の立場の視点を持って後輩の指導をしていこう」「自分の能力をより伸ばしていこう」、そして「育ててもらってきた街全体へ貢献しよう」。そんな決意が、言葉に込められているのです。
仕事は「大変な」ことの連続です。しかしその大変さの中にこそ、次の自分を育てる芽があります。それらを受け流すのではなく、しっかりと受け取り分析して、次のアクションにつなげることが、新人と中堅をつなぐ立場には必要です。こうした実践を重ねていくことで、組織内外の課題認識を深め、解決のための自分なりの仮説を立て、周囲を巻き込んで実行し、そのプロセスや結果を検証するという能力を伸ばすこともできます。
後輩の指導方法を模索することを通じて、見えないこと、見過ごしがちなことを見ようとする姿勢が、大切なのです。それは、自分の状況を見て「甘すぎる」と言ってくれる先輩がいる時期だからこその特権なのです。もしうまくいかなくても、相談できる先輩がいる今こそ、後輩の指導をやらせてもらいましょう。舞妓さんの引き締まった表情は、その期間を無駄にしないという、決意の表れのように思えました。
責任感をもって働くことは、自分の担当業務をこなすだけでは不十分です。目線を上げて、自分の歩んできたプロセスを検証し、さらに自分をどう伸ばすのか、そんな姿勢を持って後輩の指導にもあたれば、きっとスキルアップにつながります。そして、組織全体のためにという視点を備えた次の時代を担う有望な若手として、中堅の先輩から認められ、キャリアの可能性も広がっていくでしょう。
次回も、仕事経験や簡単ではない人間関係の中で、しなやかに自らを磨きたい、そんな皆さんのお悩みを取り上げて、考えていきます。
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