市中金利上昇による金融機関への深刻な影響
冒頭でお話ししましたように、現在、既発債は約700兆円発行されており、その大部分は日本国内の金融機関が保有しています。金融機関は時価会計制度を採用していますから、市中金利が1%上昇すると、先程の理屈によってメガバンク3行だけで約2兆円もの含み損を抱えてしまうと試算されています。日本の銀行全体で考えますと、当然のことながら、その額はもっと大きなものになります。
銀行への影響をもう少し具体的に見ていきましょう。三井住友銀行のバランスシートに戻りますが、「純資産の合計」は約5兆7000億円ですから、企業の中長期的な安定度を示す「自己資本比率(=純資産÷資産)」は5%弱という非常に低い水準だと言うことがわかります。実際は、国際決済銀行などの基準による銀行の自己資本比率の計算の仕方はもう少し複雑なのですが、一般企業と同様の基準で計算しますと5%弱しかないということです。これは、他のメガバンクも同じような状況です。
その上で、金利が1%上昇するとメガバンク3行で約2兆円の含み損を抱えるわけですから、1行あたり約7000億円の含み損を抱えるという概算になります。ですから、市中金利が1%上昇しただけで、銀行にとっては非常に大きなインパクトがあるのです。すると金融機関の脆弱性が高まり、金融が不安定になる恐れがあります。そこまでいかなくとも、自己資本比率維持のために、資産の圧縮(=貸し渋り)ということもありえます。もちろん、この影響はメガバンクだけではなく、全ての金融機関に及びます。
このところ、国債の流通利回りは0.8%を切る水準で推移しています。もし、ここで安倍政権が目指す「物価目標2%」が実現しますと、金利は今より1.2%程度上昇してしまうわけですから、メガバンク3行が抱える含み損は2兆円では済まなくなります。日銀が政府に抵抗して、これまで頑に「物価目標は1%にすべきだ」と言ってきたのは、このような理由があるのです。
さらに、政府が物価をうまくコントロールできるかどうかも分かりません。もしコントロールに失敗して、長期金利が3%まで上昇してしまったら、金融が不安定になるだけでなく、経済全体が大きく混乱する危険性があります。もちろん、それ以上に名目成長率が成長すれば、経済の状況が良いのでショックは和らぎますが、それでも、長い間超低金利下で経済が推移した「後遺症」は金利上昇では避けられないのです。1%が2%、あるいは3%となるのは、もともと5%あったものが上昇するのとはショックの度合いが違うのです。負債の多い企業にも大きな影響が出ます。
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