ドイツはEUを「監獄」のようにしてはならない 英国を離脱させてしまったEUの問題点とは?

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離脱が覆らないとの前提に立てば、今後、両者の「新たな関係」構築に向けて対英交渉に臨むEUはこれまでの優柔不断で決定力に欠けるEUとは一味違うはずだ。EUはギリシャも、アイルランドも、ポルトガルも、キプロスも、危ない時には不承不承ながらも必ず助けてきた。それは彼らがEUの一員であり、また共通通貨圏の一員でもあったからだ。EUでも共通通貨圏でもなく、しかも発足以来手心を加えてきた相手から恩を仇で返されて、よい気分がするはずがない。ユンケル欧州委員会委員長の「脱走者」という比喩がEUの本問題に対する基本認識を最も端的に表している。

両者の「新たな関係」を巡る交渉は新たな英首相の下で9月以降に行われることになるが、残された選択肢はほぼ見えている。結局は英国がEUからいかにメリットを分けてもらうかしか争点はなく、EUは常に優位な目線から交渉を進めるだろう。英国から何か差し出せるものがあれば、交渉も一進一退の様相を呈しようが、両者の実力が伯仲していない以上、「交渉」というよりも英国からEUへの「懇願」にしかならない。

「奥の手」まで使ってしまった英国

こうしてみると英国とギリシャの違いを感じずにはいられない。国内銀行部門が青息吐息になりながらもギリシャが今でもEUやIMF(国際通貨基金)に対してぶしつけな態度を取れるのは、「ユーロ圏からの離脱」というカードを持っているからである。英国も「EUからの離脱」というカードを持っているうちは、2月に合意したEU改革案に代表されるように自己主張を通すことができた。だが、このカードはもうない。現状の英国とギリシャの立ち位置を比べると、「奥の手」は最後まで見せてはならず、見せるならばさらに「奥の手」を持たなければならないという交渉の本質がよく分かる。

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筆者が2014年にEUとユーロの構造を分析し、未来を予測した著書

「BrexitはRegrexit(後悔の離脱)」という言葉も流布し始めているように、離脱派には勝利した後の青写真がなく「奥の手」はなかった。それどころか事前に提示してきた離脱後の公約を早くも撤回する動きすら見られ始めた。交渉によって英国が得られる果実はあまり期待が持てそうにない。

結局、キャメロン首相が党内の支持基盤固めのために国民投票へ打って出たことは、超ハイリスク・ローリターンのギャンブルに過ぎなかった。仮に残留派が勝っても、これほど世論が分断していることを明らかにしてしまっては、それによって支持基盤が固まったのかどうか怪しい。そう考えると、そもそも賭けとして成立すらしていなかったようにも思えてくる。

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