一方、キャメロン首相の博打が責められるのは当然にしても、EUに反省の余地はないのか。周縁国の債務問題で金銭的負担を強いられつつも、ユーロという「永遠の割安通貨」によって荒稼ぎし、その上で共同体への利益還元に消極的なドイツの教条主義的な政策運営は今や欧州を超え、G20など国際経済外交の場でも摩擦を引き起こしている。これがBrexitの遠因となった側面は無視できない。英国を脱走者と名指しすることに違和感はないが、脱走させてしまうような「酷な環境」を作ってしまったことについての自省は必要である。
例えば移民問題は今回、離脱派勝利の最大のポイントになったと言われる。特に、5月26日に英国政府統計局(ONS)が公表した英国への移民純増数は、2015年12月までの1年間で33万人に達したというもので、これが、離脱派にとって強い追い風になったといわれている。この点、「EU経済の低迷→失業者の増加→英国への移民増加」などの経路も相応にあったであろうことを踏まえれば、EUとりわけユーロ圏の経済・金融政策運営とBrexitの因果関係を議論する声はもっとあってもよいかもしれない。
ユーロフォリア崩壊の尻拭いに英国は嫌気
実際、2000年初頭から増え始めたEU域内から英国への移民は債務危機が深刻化した2009年以降に急増している。
ユーロフォリアと言われた2000~07年の時代、南欧諸国はユーロ導入に起因する為替リスクプレミアムの消滅を契機に低金利環境を満喫した。その結果、何が起きたのかに関し、もうここで改めて説明する必要はないだろう。元より通貨ユーロを使っていない英国がこうしたブームの尻拭いをさせられていると錯覚してもさほど不思議なことではない。
また、ユーロ圏の失業者数を見るとリーマンショック後の2008年末に約1200万人だったものが2015年末は約1740万人(欧州委員会予測)であり、差し引き約540万人の雇用が失われたままである。この点、完全雇用状態にある日米の雇用市場とは彼我の差を感じる。こうした失業者がユーロ圏外にあってEU最大の経済大国である英国を目指した可能性は容易に想像がつく。
ユーロ圏の経済・金融情勢の低迷とその後の事態収拾のまずさが英国への移民増加につながった側面はなかったとはいえない。この点、離脱派の主張にもうなづける部分はあった。とはいえ、英国への移民に関しては、依然としてEU域内からよりもEU域外からの方が多く、「移民≒EU」という離脱派の主張はミスリーディングな部分があるのも事実である。英国がEUから離脱してもEU域外からの移民が減る理由にはならない。
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