ドイツはEUを「監獄」のようにしてはならない 英国を離脱させてしまったEUの問題点とは?

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せめて安定・成長協定(SGP)や財政協定に代表される機械的なEUの財政規律を柔軟に運用するよう、方針を見直すことについて、ドイツにはリーダーシップを発揮する義務があると筆者は思う。ECBが非伝統的な金融政策によって金利を抑制し、「時間稼ぎ」をしている今だからこそこうした対応は可能ともいえる。また、欧州系金融機関の体力を奪い続ける過度な資本規制やマイナス金利政策なども見直すことに価値はあろう。今回、離脱派が主張するメリットの中に「EUの過度な規制に縛られず、緩和的な規制を設けることで資本を引きつけられる」といった類の声があった。これは一面では真実に思われる。

メルケル首相が言うように、もう英国は戻ってこない。これからEUが考えるべきことは脱走者を罵倒するだけではなく(それもEUを支えるために、ある程度は必要な政治パフォーマンスではあるが)、追随する脱走者を出さないような環境作りである。

ドイツ流の押しつけでなく、多様性の容認を

そのためにはドイツの意識改革が重要になる。ドイツのような規律正しさやその結果としての内需過小な状態をほかの加盟国にも押しつければ、ユーロ圏を主体とするEU統合プロジェクトは、一部の国々にとって脱走したくなるほど辛い「監獄」での「しばき上げ」でしかなくなってしまう。あくまで「ドイツがドイツらしくいられるのはほかの国がドイツではないから」という事実を再度認識した上で、統合戦略の練り直しが必要であろう。

必然的に、今後の統合の進め方は変わっていくことになるはすだ。ショイブレ独財務相は英国民投票の前に「あるEU加盟国の一部の人は6月23日に間違った決定(≒離脱)が下された場合、EUへの権限移行を強化すべきだと考えているが、ほかの加盟国の人達はそれはとんでもないと言うだろう。教訓を学んでいないのだろうか(6月13日、ブルームバーグ)」と述べた。要するに、従前の統合方式を見直した上で、ついて来られる国とそうでない国を切り分けてプロジェクトを進める必要性があるという認識である。

これは例えば、ドイツやフランスなどのコア国が先行して通貨統合を超える財政・政治統合を目指す「2速度式欧州」ないし「マルチ・スピード欧州」などと表現されることがある。また、各国が参加したい統合分野だけに限定し、部分的な離脱も可能にするアラカルト方式を求める声も見られている。一口にEUといっても、通貨ユーロ、欧州銀行同盟、財政協定、シェンゲン協定など様々な参加メニューがあって、自由な選択が許されるという運営である。

2000年代以降、「拡大」と「深化」を順当に進めてきたEU政策当局からすれば屈辱的な路線変更かもしれないが、2人目の脱走者を出さないためには、現状の「監獄」にも喩えられる環境を相応に緩和してあげるような複眼的な戦略が必要になってくる。そうした方向性はEUの「多様性の中の統一(Unity in diversity)」という理念にも合致する。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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