これでは、待遇改善のデモが起こっても仕方がない。何しろ、今のニューヨークの物価は東京に比べてもはるかに高いからだ。さらに、経営危機にもかかわらず、経営陣が高額の年俸を受け取っていることも、従業員の怒りに火をつけている。
たとえば、アーサー・ザルツバーガー会長の年俸は539万ドル(約4億3000万円)、ゴールデン副会長は223万ドル(約1億8000万円)、フォロ上席副社長は176万ドル(約1億4000万円)となっている。さらに、11年に退任したジャネット・ロビンソン前CEOは年俸にして1000万ドル(約8億円)以上を受け取り、2400万ドル(約19億2000万円)の「退職金」を受け取っている。
会長のお手上げコメント
NYT紙では、経営危機に見舞われてから、これまで2度、編集者、記者のリストラを行ってきた。10年には100名の記者とデスクを解雇し、さらに11年にも20名をリストラしている。
そうして、デジタル版に注力し、課金モデルへの転換による収益の回復を図ってきた。プリント版はもう限界だと見切りをつけ、プリント版のベテラン人員を減らしながら、デジタル版の人員を増強してきたのだ。
今回のリストラを発表したエイブラムソン編集長は、デジタル版の人員を増強した結果、編集局員がおよそ1150人にも膨れ上がってしまったと指摘している。これは、03年と同じ規模だ。また、広告の激減に苦しむ営業サイドでは、この数年で人員が6割以上も減ったという。つい最近も、広告局では30名の希望退職者の募集を発表したばかりだ。
ただし、それでもなお、ニューヨーク・タイムズ・カンパニー(以下NYT社)の従業員数は7000人を超えている。これは、日本の大新聞、読売新聞、朝日新聞に比べると5割も多い。NYT社の収益は日本の大新聞の半分以下なので、まだまだリストラの余地はある。
いずれにしても、リストラだけでは広告収入のマイナスを埋めることはできない。12年7~9月期の第3四半期広告収入は、マイナス成長。前年同期比で、プリント版は10.9%、デジタル版は2.2%低下した。
ザルツバーガー会長は、「デジタルの課金制は大成功だが、広告を取り巻く環境は極めて不安定で、これが近い将来に是正されることはないだろう」というコメントを出している。このコメントは、「まったく打開策がない、お手上げ」と言っているのに等しいと、私には聞こえた。
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